路地裏バトルプリンセス (GA文庫)

【路地裏バトルプリンセス】 空上タツタ/平つくね GA文庫

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ある夜、路地裏で高校生の日月は、姿を偽り腕を競う路上格闘技“血闘”に身を賭す一人の少女と出会う。彼女のその―金のツインテールに改造セーラー服姿は、全ての敵を「一撃」で沈め、そして消えた伝説のランカー“魔王少女”のもの。ところが日月は―そんな“魔王少女”を「一撃」で沈めてしまう!「いるもんだな…ニセモノって」何故なら―!?―この地には、魔王少女が現れる。そんな噂が流れ出して一年。本物の一撃に憧れる少女が、戦うことを辞めた少年と出会うとき、“血闘”に新たな伝説が刻まれる!!白熱の路上バトルアクション、開幕!第6回GA文庫大賞優秀賞。

剣と魔法の異世界に行かなくても、戦国乱世に飛ばなくても、この現代日本でだって、生きるために戦わなければならない時はある。これは、そんな死なないために、心を朽ちさせないために、拳を握ることを選んだ少年少女の物語だ。未来を、将来を掴むためではなく、現在を、今この時を生き残るために戦う道を選んだ戦士たちの物語だ。舞台は華やかな戦場でも闘技場でもなく、街の灯も届かない薄暗い路地裏である。公のものではなく、世間に顔向け出来るようなものでもない、路上での殴りあい。スポーツなどではない、ただの暴力。その厳然たる事実を、この作品は作中の登場人物の言葉を以って、切々と語りかけてくる。それはとても危険なもので、取り返しのつかない野蛮なもので、決して褒められたものではない暴力なのだと。
その上で、それでも戦うことに、戦う意志に、拳を握るということに意味がある場合だってあるのだと、少年少女たちは叫ぶのだ。生きながら死のうとしている心を、奮い立たせるために。敵に、暴力に立ち向かうために、自分は生きるのだと示すために、戦うのだ。拳を握り、それを振るわなければならない時があるのだ、と。
この日本は、平和な世界だ。今なお、世界でも有数の穏やかな日常を過ごせる環境が整った場所だろう。でも、そんな中でも理不尽に苦しむ者は存在する。暴力にさらされ、のた打ち回り、体よりも先に心が死んでいこうとしている者達がいる。自分を見失い、足掻くようにして自己を証明するための手段を求め続ける者もいる。
自分を証明するために、自分を救うために、弱い自分に打ち勝つために。
戦うための手段は様々にあるだろう。その中で、彼らが見つけたのは、彼らの中にあったのは、その握りこんだ拳だった。そして、彼らはそこにただの暴力ではない、誇るべき戦いというものを見出したのだ。誰かをただ傷つけるのではない、痛めつけるのではない、自分を証明し、相手を称えるための手段として、腕を競い合う場を見出したのだ。
でも、たったひとりで戦い続けることでは、自分を救い切れなかったんですよね。だからこそ、この娘たちは証を受け取ってくれる人を、自分が死なずに生きることを確かめてくれる人を、自分が握りしめた戦う意思の価値を認めてくれる相手を、ずっと探していたのだろう。そして見つけたのだ。自分の戦いのすべてを、見守ってくれる人を。
これは、決して日の当たる明るい場所で繰り広げられる、賑やかで笑いに満ちた青春劇ではないのだろう。でも、それ以上に痛切で必死で全力でのたうち回って叫び続ける、若者たちの血反吐を吐くような青春活劇なのだ。
心折れ、精神の死を受け入れ、すべてを諦めてしまった少女が、再び立ち上がり拳を握るラストシーンは。生きることを渇望する少女たちの叫びを、それに堪えて、彼女の願いを信じて、ともに戦い、その行く末を見守った登場人物たちの鮮烈なくらいの想いのたけがぶちまけられるラストシーンは、まさに魂を揺さぶられるワンシーンだった。
思っていた以上にヘヴィでごまかしのない真正面からの正拳突きで、実に読み応えのある一作でした。
なんちゅうか、表紙を飾る女の子の闘争は、恋愛を挟んでいる余裕のない必死さで、主人公の日月とくるみの関係は文字通りの師弟関係なんですよね。一方で、小町の方は日月の表の顔と裏の顔の両方に最初から踏み込み、自分の目的と合わせて彼の表裏両方に己の求めるものを見出しているので、ダイレクトに彼に接している。だからか、彼女の方が真っ当にヒロインしてるんですよね。くるみの方は物語においてはむしろメインなんだけれど、あまりにも主体すぎてヒロインにはなれてないのです。もっとも、その状態はこの巻において決着し解決を見たので、これからスタート出来るのでしょうけれど。くるみの出足の遅さも目立つし、これはどうやらどっちがメインというわけじゃなく、ダブルヒロイン体制になってるのかもしれない。現状では、かなり小町の方がメインヒロインっぽいけれど。
いずれにしても、バトルものというよりも、読み応えのあるガッツリとした青春モノでしたが、非常に面白かった。既に続刊は確保してあるので、引き続き読んでいくつもり。