艦隊これくしょん ‐艦これ‐  鶴翼の絆 (5) (富士見ファンタジア文庫)

【艦隊これくしょん ‐艦これ‐ 鶴翼の絆 5】 内田弘樹/魔太郎 富士見ファンタジア文庫

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熾烈を極めたAL/MI作戦から半年。辛くも作戦には勝利した瑞鶴たちだったが、深海棲艦との死闘はさらに激しさを増すばかりだった。そんな中、瑞鶴にトラック泊地で雲龍ら新たに着任した艦娘の訓練を行うという任務が下される。一方、本格的なアイドルとしての第一歩を踏み出した軽巡洋艦・那珂もまた、アイドル活動のためにトラック泊地を訪れていたが、そこに深海棲艦の影が忍び寄る。敵の砲身がトラック泊地を狙う時、艦娘たちの秘めたる想いが激突する―!“幸運の空母”瑞鶴ら艦娘たちの激戦を描く『艦これ』本格“戦記”小説が今、新たな局面に突入す!
これ、15年冬イベントの「迎撃!トラック泊地強襲」にあたるのか。しかし、ゲームと違うのは参入がこれ以降となる天城・葛城の雲龍型空母二隻が戦前の段階で加わること。そう、ズイカツですよ、ズイカツ! 葛城の登場と共にその瑞鶴への慕いっぷりから、瞬く間に盛り上がったカップリングが今此処に小説としても生誕することに。これまで第一航空戦隊・第二航空戦隊の後輩として加賀たちから厳しく始動を受けてきた側である瑞鶴が、今度は新規参入することになった新型正規空母たちの面倒をみることになり、はじめて先輩として振る舞う日々。後輩に甘んじている時にはわからなかった先輩として、指導役としての苦労や後輩に対する愛情が、遡って加賀さんへの想いにも影響してくる、という双方向に美味しい人間関係がズイカツの素晴らしいところで。
いやー、この葛城も素直でひたむきで、本当にキラキラした目で瑞鶴のこと見てくるんですよね。
かわいい、すごくかわいいよ! 加えて、すごく頑張り屋さんなところが、一癖も二癖もある空母たちの中でも純真で、いいなあ。
さて、瑞鶴と翔鶴姉妹は、この度トラック泊地に進出し、着任した大鳳・雲龍・天城・葛城の戦力化に務めることになったのだけれど、まさかの大鳳・雲龍が終始いがみ合う仲の悪さに。なるほどなあ、本来接点のない二人を、そういう風に持ってきたか。特に大鳳は、姉妹艦がいないだけにどう絡ませるかと思ったけれど、空母の性能や特質、戦力化がなされた時期を鑑み得ると、大鳳型と雲龍型では色々と思うところもあるんだろうなあ。フラットに関しては、まあともかくとして。雲龍さん、その物言いは瑞鶴や葛城もさり気なくディスってる気がするんですがw
しかし、これは温厚な翔鶴姉さんの胃がマッハであるw
さて、訓練に四苦八苦する空母たちの一方で、川内型軽巡三姉妹の方にも問題が持ち上がっていた、というのが今回の主となるお話。なにしろ、表紙を飾るのは葛城ではなくて那珂ちゃんですもんねえ。文字通り、今回の主役は彼女……というのは少し違うかもしれませんけれど、艦娘と存在意義というのもを証明してみせたのは間違いなく彼女だったんじゃないでしょうか、今回のお話は。
さり気なく、戦時徴用船のお話を今回一番基板となる部分に盛り込んでるんですよね。艦娘たちが、先の戦争の記憶の中で強く抱いている後悔。それは、決して戦いのことに限らず、むしろ「守れなかった」という後悔が多く垣間見せるんですよね。その中でも特に、今回ピックアップされたのは同じ艦隊の仲間ではなく、戦う力を持たない無力な艦艇たち。それも、本来なら軍隊に所属しない、軍が守らなければならなかった民間からの徴用船であり、その船に乗り込む民間人たち。力及ばずそれらの船を沈めてしまったり、それどころかそもそも守ることすらせずに見捨ててしまったことに、この少女の姿と心を持って生まれ変わった艦娘たちは、ずっと強い後悔として抱えているのです。その後悔を晴らすために、この戦いでは常に守ることを強く意識して戦っている彼女たち。それでも、どうしたって力及ばず、犠牲を出してしまうこともある。でも、その痛みに耐え切れず、心砕かれてしまう艦娘もいるわけで。那珂ちゃんは、そんな守れなかった痛みに心が傷つき、それでもなお戦おうとして悶え苦しんでいる。そんな姉妹を見かねている川内と神通もまた苦悩を重ね、とこっち方面はなかなか重苦しい話ではあるんですけれど、でも先の大戦と違ってこの戦いにおいては、守られる側と守る側がお互いをきちんと慮り、気持ちを通じ合わせている、という意味では理想的ではあるんですよね。苦しむ那珂ちゃんを、なおも信用し、信頼し、艦娘たちに船を託す徴用船の船員たち。そこには、確かな信頼関係がある。これは、かつてはなかったものなんだよなあ。

敵深海棲艦のトラック来襲艦隊は、想像を絶する規模であり、ちょっと軽く絶望的すぎて、あのイベントのトリプルダイソンの悪夢とか思い出して、胃がおもーくなりましたがな。戦艦大和・武蔵の二艦が揃っていながら、砲撃戦じゃあ完全に圧倒されてるじゃないですか。戦艦水鬼相手じゃ太刀打ちも出来ないのか。最強戦艦がこうも簡単に蹴散らされるようじゃあ、大和型の名折れだわなあ。そりゃあ、強化が必要だ。
一方で、新米連中を叩き上げ、辛うじて敵艦隊来襲に間に合った空母機動部隊。赤城・加賀・飛龍・蒼龍が来援するまでに、よくぞ持たせた、という奮闘っぷり。指導する側もされる側も手探り状態で、お互い学び合いながら、支えあいながら、一端の航空戦隊へと仕立てあげたという感もあるので、感慨深さもひとしお。そこにさらに、あの加賀さんからの乙なプレゼントもありましたしね。あれは、士気もテンションもあがるというもの。
いいじゃないですか。櫛の歯が欠けたように歴戦の艦が脱落していった結果として生まれてしまった第一航空戦隊よりも、こうしてみんな揃った状態で送られる第一航空戦隊の旗の名の、なんと誇らしいことか。

そして、もう一方の主役である水雷戦隊たち。鬼気迫る、というのはこのコトか。元々、敵艦隊に真っ先に突貫していく水雷戦隊は、その覚悟といい気迫といい並外れたものを秘めているんだけれど、今回は川内も神通も那珂ちゃんの件もあって、随分と気合入ってたもんなあ。このトラック泊地の戦いでは、水雷戦隊のライバルともいうべき軽巡棲鬼が初登場となるのだけれど、ある意味神通姉さん、これ切って捨ててるんですよね。しゅごい。
そして、文字通りの血反吐をはきながら、戦場に再び立つアイドル那珂ちゃん。輝いてる、今貴女輝いてるよ、那珂ちゃん。
さり気なく、そんな那珂ちゃんをサポートする吹雪たちがまた頼もしいんですよね。吹雪、この小説だと歴戦というか古豪の駆逐艦という風情を漂わせていて、夕立とか時雨とか六駆みたいな目立つ要素はないんだけれど、渋さを極めたような風格があるんですよね。実に玄人好みの味付けになってます。

いやあ、今回も手に汗握る展開で、非常に面白かった。舞風と野分の駆逐艦カップリングなども合わせて、艦娘同士の戦場故の戦友と親友がミックスされた人間関係も、濃厚で堪能させてもらいました。姉妹関係あり、友人戦友関係有り、先輩後輩関係あり、とキャラ同士の関係にも様々なポイントがあって、うん面白し。

さて、次回はついに海外艦との接触。ドイツ艦もまだ誰も登場していない段階なので、発令!第十一号作戦は大幅に派手なお話になりそう。できれば、この話が出来るまでに英国艦か米国艦の一隻でも加わってくれると、話も広がるんだけれどなあ(チラッ

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