戦うパン屋と機械じかけの看板娘〈オートマタンウェイトレス〉2 (HJ文庫)

【戦うパン屋と機械じかけの看板娘〈オートマタンウェイトレス〉 2】 SOW/ザザ  HJ文庫

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徐々に経営が安定し始めたパン屋「トッカーブロート」の店主ルートの元に、巨大飛空船で開催されるワイルティア・旧ペルフェの親睦パーティの招待状が届く。
そのパーティで供されるパンを焼いて欲しいというのだ。
お店の知名度アップを目論むスヴェンに説得され参加を決めるルートだが、その裏には政治的な思惑や陰謀が渦巻いているのであった。

相変わらず、機械人形なのにクールどころか感情が溢れすぎてて若干暴走気味ですらあるスヴェンが可愛すぎる。うん、クール系も好きですよ。マシンマシンした娘がふとした瞬間に垣間見せる感情の萌芽みたいなものは愛でるに十分な要素ですけれど、スヴェンの情熱的な性格は機械人形キャラのイメージをひっくり返すパワフルさで、実に素晴らしい。ちょいと嫉妬がすぎやしませんか、というくらいルートにコナ掛けてくる女性に対して威嚇しすぎなきらいがありますが。
しかし、スヴェンは気づいていませんけれど、これもうルートの方はスヴェン=アーヴェイである事に気づいてるんですよね。一巻の終わりに気づいたような素振りみせてましたけれど、疑惑段階じゃなくてもう確信してるようなんですよね。元愛機のAIがいきなり女の子の姿で現れたことに対して、さして気にした様子も見せてないあたり、この男大らかがすぎるんじゃないだろうか、と若干焦りすら覚える。元上官のソフィアもだけれど、彼をよく知っている人であるほど、この男を放ってはおけない、という気持ちになってるのもわからなくはないなあ。どうも、男女の機微云々どころじゃなく本当の意味で鈍いようなところがあるし。それでいて、かなり繊細な面もあるからなあ。ソフィアは、ルートへの対応完全に間違えてますよね、これ。いや、罵倒と手足が同時に出るのは性格みたいなので、間違えてるんじゃなくて最初から終わってた、というべきか。まあ激しく叩かないと反応が返ってこない感じだから気持ちはわかるけれど。
と、話が逸れたけれど、ルートの方はスヴェンの素性についておおよそ検討をつけている、というか戦場で誰よりも信頼していた相棒だと察したからか、一巻の時よりもスヴェンの行動や判断に対する信頼感がはるかに増しているので、彼女との息もピッタリなんですよね。けっこう、スヴェン乱暴なこともしているのですけれど、その場面においては必要な事でもあり、それをルートは邪魔したりせず彼女に任せるので、かなり厳しい場面の連続にも関わらず、スムーズに対処が進んでいたあたり、二人のコンビは先の大戦の頃の黄金期に勝るとも劣らないレベルに戻っていたような感じすらあります。それも、軍人としてだけではなく、パン屋の主人とウエイトレスとしても、黄金コンビになってたんじゃないかなあ。
こうして、二人でパン屋としてやっていける。おいしいパンを作って、美味しいと笑って食べてもらう。それをスヴェンと成し遂げる成功体験を、この事件以前に得ていなかったら、さてルートはソフィアの強引な、そして彼のことを親身になって心配した彼女の引き戻しに逆らえたかどうか。
ソフィアが指摘した、パン屋として働くことが逃避であり代償行為にすぎないというのは1面の真実だったのでしょう。でなければ、あれだけルートが動揺する理由がない。少なくとも、スヴェンが来るまでのルートでは否定しきれなかったでしょうね。でも、先の事件を通じて、彼はちゃんとパン屋としてやっていける、自分のパンが笑顔をもたらしてくれるという実感を得ることが叶っていた。この時点で、ルートはすでに過去に対して自分なりに区切りをつけることが出来ていたのでしょう。もちろん、なおも揺さぶられ、引き戻され、振り替えさせられることは起こるでしょうけれど、すでに彼は進みだしていたわけで……ソフィアお姉ちゃんの心配は、すでに彼の方で勝手に解消されてしまっていたわけだ。それは祝福スべきことなんだろうけれど、自分と関係ないところで、というのは忸怩たる思いがあるだろうなあ。彼女にとっては、ルートは自分の手の届かない所で傷つけられ、自分の知らない所で立ち直って先に進み始めていたわけですから。
彼女の愛情は不器用すぎて苦笑しか浮かばないレベルなんだけれど、その不器用さが可愛くてねえ、私は好きなんだけれどなあ。

大戦が終結し、しかしまだ世情が落ち着かない世の中。ワイルティアと旧ペルフェの融和の象徴として取り上げられることになったルートのパン屋だけれど、そういう宣伝が必要とされる時点で両民族の関係がこじれていることが明らかであるし、実際現場でルートたちが凄まじく蔑ろな扱いをうけたことそのものが、融和の実態がどれだけ酷い有様なのかを示している。社会問題化している戦災孤児は、さらにテロの捨て駒として使い棄てされ、さらに世情の不安を煽り拡大を企むグループもいる。
戦争の終わりが決して平和の訪れを意味せず、戦後という言葉の裏でより深く、より陰湿に争いの種がまかれ芽吹いていく様子が、この物語の中では丹念に描かれている。憎しみ、恨み、妬みといった負の感情が、戦時のような爆発的なそれではなく、じわじわと煮立つように燻っている様は、胃の腑が重たくなるような雰囲気だ。
だからこそ、純朴とも言えるルートの、美味しいパンを食べてもらって、笑顔になってほしい、という願いに切実な希望を感じるのだろう。それを体現しているであろう、ミリィの変化はだから一つの救いであって、随分と眩しいんだなあ。

1巻感想