異世界食堂 2 (ヒーロー文庫)

【異世界食堂 2】 犬塚惇平/エナミカツミ ヒーロー文庫

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最寄駅から徒歩5分。オフィス街に程近い商店街の一角に立つ、雑居ビルの地下1階。猫の絵が描かれた樫の木の扉を開くとそこは、「洋食のねこや」。創業50年、近所のオフィス街のサラリーマンが主な客であり、ちょっと料理の種類が多いのと、洋食じゃないメニューを出すことが特徴。この店に特別営業の土曜日だけの新たな従業員が加わった。名前はアレッタ。生まれも育ちも向こうの世界の、魔族の娘。変わった従業員を新たに加え、店はまたいつものように続いていく。毎週土曜の特別営業。迎える客は異世界の人々。それが―「異世界食堂」。そして今週もまた、チリンチリンと鈴の音が響く。
アレッタがウエイトレスとして本格的に働き出すのは、この巻からでしたっけ。ねこやの店主はなるべく料理を供する側に徹しているので、それぞれのエピソードではあくまで来店してくるお客様が主人公なのですけれど、アレッタが加わったお陰で彼女の話の中で店主のおっちゃんも物語の登場人物として色んな顔を見せてくれるようになったので、その意味ではアレッタの存在は作品の幅を大きく広げてくれているんですよね。
大体、一人の登場人物につき一つのメニューを担当しているのですけれど、アレッタだけ店員という特別枠のお陰で「賄い」という形で色んな料理を食べてくれるので、その反応が楽しみなのです。店主も語っていますが、彼女、本当に美味しそうに食べてくれますし。
それに、賄いなのでメニューも洋食に拘らずに色んなジャンルのものが出てきますので、思いもよらぬ品目が出てきたりもします。インスタント袋麺は、仮にもお食事処には出てくるはずもないメニューだったので「おおっ」と驚きましたけれど、これがまた美味そうで。店主、若い頃に中華飯店で修行していた時期もあったようなので、中華も自在。和食もけっこういけますし、何気に和洋中なんでも出来るんだよなあ。それでも、洋食屋なりのコダワリはしっかりあるようですけれど、実際けっこう融通きかしてくれますし(納豆ご飯とか!)、豚汁の日とかを月一でやっているのですから、拘りがしがらみにはなっていないのでしょう。
さて、魔族という出自のせいもあって餓死寸前まで困窮を極めていたアレッタですけれど、ねこやで雇って貰えるようになった事を気に風向きがかわり、帝都での生活でも順風が吹き始めます。
異世界中のそれこそ様々な場所に現れるねこやの扉ですけれど、なんやかんやとねこやのお客同士が店の外でも交流を持つ機会はあったりするわけで、アレッタも偶然外で知人となったお客さんに行き会ったことから、帝都でも安定した働き口を得るきっかけを掴むことになります。そりゃああの「ねこや」で働いている女給さん、と来れば信頼も出来るというもの。勿論、彼女の真面目で誠実な人柄あってのことですが、ねこやというブランドが後ろ盾になった、とも言えるんですよね。
逆に、異世界側では住んでいる場所が離れすぎていて、お店の中でしか逢えない友人同士、という関係も生まれたり、またお店の中で行き会ったことが縁で恋が芽生え、遠い異国同士ながら縁談が進んだり、なんて話もあったりで、美味しい料理が結んだ良縁があちらこちらで結ばれたりしていたり。
ねこやのあずかり知らぬことではありますが、お店が繋ぐ縁がけっこう国の安定や発展、国際間の平和の醸成に役立ってたりもするのです。国の重鎮や王族なんて立場の人も常連にはいるわけで、思わぬことで顔つなぎができていたり、食事を通して知り得た為人が、いざというときの信用や信頼に繋がったりもするんですよねえ。
一方で、国だの都市だのとは関係ない、一般庶民だってねこやの客には相応にいるわけで、「ハムカツ」の客となる一家のように、一月一家でお金を稼いで一日だけ贅沢するために訪れる木こりの一家、とかちょいと一昔の外食が贅沢だった時代の庶民の空気があって、なかなか好きなお話でした。これ、イイなあと思うのは結構な歳の親父さんお袋さんになってる両親が、まだ結婚する前の付き合いだした若い頃から通っていたという話なんですよねえ。今や育ち盛り食べ盛りの子供二人に引っ張られて訪れるねこ屋ののれんならぬねこやのドア。これもまた、歴史の一つじゃあないですか。
中には、ねこやの料理をあちら側でも再現しよう、という人たちが一人ならず何組も居るのですけれど、これもメニューを盗む、なんて狡っ辛い話じゃなくて、美味しい料理に感動して、その味を舌に記憶させ、その料理法や材料を必死に推察考察し、あちら側で材料を探しまわり、研究に研究を重ね、といったように皆、努力に試行錯誤を重ねて、あの美味しい料理を再現するのだ、という意気込みが素晴らしいんですよねえ。勿論、欲得だって絡んでいますけれど、その根本にあるのは美味しい料理への感動。こういった人たちの努力の結晶が、徐々に異世界側にも広がっているのが、だんしゃくの実にまつわる料理や、騎士のスープ、ドワーフの火酒なんかで散見されて、こんなところにも世界の広がりが感じられるのです。
さて……記事書くのにパラパラと見直してたら、またお腹すいてきてしまったじゃないか。どうしてくれる!

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