コップクラフト 5 (ガガガ文庫)

【コップクラフト 5】 賀東招二/村田蓮爾 ガガガ文庫

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太平洋上に突如として出現した超空間ゲートの向こうにある異世界“レト・セマーニ”と地球との玄関口である都市・サンテレサ市。この街の警察で、特別風紀班のメンバーとして所属するマトバの元に、ある男が怪死したという知らせが届く。その男はかつてマトバと共にセマーニ世界に平和維持軍として従軍していた過去を持つ人物だった。その後、彼と同じような殺され方をした死体が次々とサンテレサ市内で発見され、その奇妙な殺し方から同じ人物の犯行ではないかとの見方が強まる。検死の結果、殺人の手口は地球での技術とセマーニ世界の魔法、両世界の技術を使わなければ行うことのできない殺しの方法であることが判明する。さっそく捜査を始めたマトバと相棒のティラナだったが、殺しのターゲットはついに2人が仕事がらみで世話になっている人物たちにまで及ぶように。だが調べを進めて行く内に、殺人の手口が、かつてセマーニ世界で起こった紛争時に地球の軍事訓練を施され組織された、セマーニ人の部隊が使っていた方法と酷似していることが判明する。はたして犯人の目的とは何なのか? 1年ぶりに帰ってきた痛快無比のポリスアクションシリーズ第五弾が登場!
前回がコメディタッチの短篇集だったので、本格的な刑事バディものとしては11年にでた3巻以来だから4年ぶりくらいになってしまうのか……あれ? 3巻も厳密に言うと学校への潜入捜査だから、微妙に学園モノぽかったんで、ガチのポリスアクションとなると2巻以来になってしまうのか? というか、一巻通して一つの事件を追いかける、というケース自体、1巻以来になってしまうのか?? このシリーズ、わりと紆余曲折ぐりぐりしてるのね。刊行間長いしなあ。
ともあれ、一巻時と違うのはやはりマトバとティラナの相棒関係でしょう。反発し対立しいがみ合っていたのも随分と昔、今となっては憎まれ口こそ叩き合うものの、以心伝心痒いところまで手が届く信頼感で結ばれた相棒関係が成立してるんですよねえ。いや、微妙に痒いところには手が届いてない気もするし、わざと掻き毟らないように回避している感じもあるのですが。
でも、ティラナがやられた時のマトバのガチギレを見てるとねえ……(ニヤニヤ
しかして、今回のお話は日本の刑事物ではなかなかお目にかかれない、刑事の前歴にまつわる因縁が事件となって降り掛かってくる展開なのです。日本の刑事は、概ね社会に出た時から警察官やってるので、過去の因縁といってもだいたい昔に関係した警察関係の事件の因縁ばかりなので、こういう軍人時代の人間関係や軍隊での過去が現在に追い付いてくる、みたいな展開はそれこそ昭和の戦後すぐの頃を描いた作品でないと出てこないんですよね。刑事当人を抜きにした軍人や元軍人が事件に関わってくる話にしても、日本だと自衛隊云々だと変な思想が事件の動機やらに絡んでくるような話になっちゃうこと多いし。
いずれにしても、これはいわゆるまだ戦争の記憶が薄れていない「戦後」の話というわけだ。あらすじからして、マトバの軍隊時代の過去に密接に関わる話なのか、と期待したのだけれど、実のところマトバ自体は単に巻き込まれただけ、みたいな感じで彼が直接云々、というわけではなかったのだけれど、あの当時同じ戦場で戦っていた同僚の兵士が、戦後様々な道を歩んでいる、というかその大半が身持ちを崩してろくな生き方をしていない、というのは身につまされるものがある。わざわざサンテレサで刑事になる道を選んだマトバからして、その選択に戦場の記憶が大きく影響を与えたであろうことは否めないのだけれど、それだけ戦場という現場での記憶というのは、それだけ強烈なものなんだろうなあ。
そして、この話はそうした強烈な記憶の残滓を引きずって起こったような話……と、見せかけつつ、むしろより深くえげつなくおぞましい、戦争の渦中からそれが終わったはずの今に至るまで何一つ変貌していない闇の顕在を示していた、ということで、色んな意味で救いがない話ではあるんだけれど、視点を変えてみるとこの事件が起こってしまった原因となる、健気で純粋な親愛があの地獄のような戦場の中で拾われ、ドブ川のような戦後の混乱を経て今に至るまでそれが守られ続けたことが、闇の存在を浮き彫りにした、という意味では、実はなかなか救いのある話だったんだろうか。
許されざる犯罪が表沙汰になり、犯人も捕まり、マトバにとってもあの戦場の中で戦友と呼ぶに相応しい男が居る事を知り得ることが出来たし、結末も、悲劇では終わらずギリギリなんとかハッピーエンドっぽかったし。
ただ、ティラナにとっては地獄の蓋があいてしまった、のではあるが。
これってようやく、このコップクラフトシリーズの芯となるストーリーの開幕になってしまったんじゃないだろうか。以前からの事件も、無関係ではないんだろうし。

シリーズ感想