不戦無敵の影殺師 5 (ガガガ文庫)

【不戦無敵の影殺師(ヴァージンナイフ)5】 森田季節/にぃと ガガガ文庫

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「異能力制限法」により異能力者はすべて社会から管理され、戦う機会が奪われた現代。

俺――冬川朱雀と相棒の少女・小手毬は無能力者との戦いが終わり、いつもどおりの生活に戻れると思った。しかしその矢先、小手毬が血を吐いて倒れた。そして意識を失い、俺の隣に眠っている。どうかこれを眠りだと、定義させてほしい。たとえ息をしていなくたって、眠りと言わせてほしい。ふとももに小手毬の重さを感じているから、よりそう思えるのかもしれない。小手毬の重さは意識がなくても変わらない。あいつの頭の重さが俺の脚を支配する。

どうして、お前の首元、こんなに冷たいんだよ――。
誰かを倒せば小手毬が目を覚ますのか?
――そんな敵は存在していない。
最強を目指してあれだけ悩んで、戦って、傷ついた。
強くなった。なのに俺にはなにもできない。

俺が何をすれば、小手毬が戻ってくるんだよ!
・・・・・・誰か、教えてくれ――。

無能力者との戦いの末に、煌霊でも人間でもない状態に陥った小手毬。果たして彼女を救う手段は存在するのか――。予想外の展開をみせる異能力リアルアクション第5弾!
いや、今回の話、凄かった。元々この作品は冬川朱雀という男が置かれた状況・環境の中で延々と懊悩し続ける様子を描き続ける作品ではあったのだけれど、今回のそれは極限も極限、というべき状況でしたからね。
主従どころか人と人の関係でもなかった小手毬との関係を、恋人のそれへとようやく手繰り寄せた途端に訪れた、小手毬の昏睡。いや、実質死んでいるのと変わらない状態に陥ってしまった彼女、助ける方法があるのかもわからないまま、仮死状態のまま安置されてしまった小手毬に、置き去りにされてしまった朱雀。
直後の精神の均衡を崩しかける朱雀の様子を描いた場面も、壮絶といってイイくらい迫真だったのだけれど、今回の話の真骨頂はむしろその後だったのではなかろうか。
ことが起こってしまった直後、というのはむしろ波打つ感情を抑えたり、振り回されたりすることに忙しくてそれに夢中になっていれば時間は流れていくのだけれど、時間が経過していくごとに波立っていた感情も落ち着いてきてしまうのである。小手毬の不在に苦しみ寂しさに心掻き毟られていたのが、徐々に彼女が居ないことが常態になっていく、普通の日常になっていく。
何も出来ない自分、何をしたらいいのかもわからないことへの無力感、無常感が気力を喪わせ、感情を摩耗させていく。周りの人たちは、いろんなことを言ってくるのだけれど、それが煩わしく、辛い。
この苦しみの長期化による心理面の変化の描き方が凄いんですよね。その後また、朱雀は周りの人の助言や家族のサポートなどによって、自分のなすべきことを取り戻していくのだけれど、そうした人間関係を含めて朱雀のメンタル面の爆発、滑落、停滞、再起動、奮起と諦観、そうした浮き沈みを実に生々しく描いているのですよね。そんな中で、傷つき苦しむ朱雀に寄り添い支える舞花との人間関係の再構成も強いられていくわけですが、舞花に対する朱雀の姿勢というのは誠実なんですよ、嘘で繕う事も誤魔化すこともせず彼女の献身に対して誠実であろうとするわけですが……誠実だからこそ人間のクズみたいなことになってるんですよね。
これは朱雀自身も自分がどれほど舞花に対して酷い事をしているか、舞花も自分がどれほど酷いことをされているか、を承知したまま受け入れてしまっているのが、ちょっと泣けてきてしまう。二人共、もうちょっとズルくなれば楽になれるだろうに。
小手毬を失ってからも、朱雀がずっと小手毬の事ばかりを考えながら、抜け殻になってしまった時ですら小手毬の為に燻り、再起動したときも小手毬の為にと、なにもかもを小手毬を中心において行動し日々を送っていたからか、小手毬当人が不在にも関わらず彼女の存在感の大きさは作品そのものを覆うかのようだった。だからこそ、場合によってはこのまま小手毬が戻らない展開すらもアリかと思ったんですけどね。
そんなバッドエンドすら許容して、物語を先に進めるだけの迫真が、今回の話にはあったと思う。
しかし、朱雀は最後まで諦めきれず、舞花はそんな諦めない朱雀をこそ愛してしまった。自分を後回しにして、彼の幸せを願ってしまった。
舞花がこの結末を心から喜びながら涙する様子が容易に浮かんできてしまって、とにかく切なくて切なくて。朱雀も小手毬も、そんな舞花の気持ちをちゃんとわかって居れる人間なだけに、彼女の残した想いを一生引き受けていくんだろうなあ。

シリーズ感想