魔弾の王と戦姫〈ヴァナディース〉12 (MF文庫J)

【魔弾の王と戦姫〈ヴァナディース〉 12】 川口士/片桐雛太 MF文庫J

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ブリューヌ王国に侵略したザクスタン軍を撃破するため、月光の騎士軍を結成して、その緒戦を勝利に導いたティグル。王都ニースで戦況を見守る王女レギンの下を訪れたが、王宮は謀略の渦巻く魔窟となっており、凶悪な魔手がティグルに忍び寄る。戦場の敵はザクスタン軍だけにとどまらず、因縁の深いあの男の登場により、ブリューヌの地を舞台とした戦乱は、新たなる局面を迎えることに。一方、ジスタートでは新たに煌炎バルグレンを継承した戦姫フィグネリアがヴィクトール王に謁見していた。幾つにも重なり合う陰謀と戦いを目前に、英雄となった少年は、戦友たちと共に未曾有の混乱を収束させることができるのか―大ヒットの最強美少女ファンタジー戦記、急転直下の第12弾!
ああ、フィグネリアさんて、またエレンと複雑な関係にある人なのか。もっとシンプルに傭兵時代の良き先輩、という風に捉えていたんだけれど、敵ではないものの友好的、とは言えない関係にあるのだなあ。感情的に拗れてしまっているエリザベータと比べると、まだマシなのかもしれないけれど、こればっかりはエレンがまたどう思っているかわからないし、なんとも言えないのだけれど……いや、むしろフィグネリアさんの方が気にしてるというか、引きずっている節があるのでにんともかんとも。
ただ、面白いことに新たに登場した彼女は、傭兵でありながら「国家観」というものを有した人でもあるんですね。
ちょうど、ティグルが国の中枢に携わろうか、という立場となり一地方領主ではなく天下国家の在りようというものをより顕著に考えるようになった折に、彼女のような存在が現れた、というのはなかなかに面白い。
合わせて、エレンが傭兵時代からその養親の影響で自分の思い描く国家観というのもをしっかりと持っていて、それをティグルに贈り物のように伝えているんですよね。そして、フィグネリアさんが国家観を持つようになったのも、そのエレンの養親の影響であり、エレンとの関係が難しいことになってしまっているのもその養親が関わっている、ということで随分と面白い因果と先々の展望への絡め方を織り込んでいたなあ、という印象。
さらにそこに、戦姫という存在がジスタート国の重鎮でありながら、国王の手が及ばない独立国の公主であるという特殊な立場であると同時に、国の担い手という立場を離れた「戦姫」という一人の戦士としての役割が与えられていることが、ミラの件で浮かび上がっているんですよね。ここ、何気にこの先においても重要なポイントになってるんじゃないかと思うわけです。ティグルのブリューヌの中での立場もあがってきたことで、ブリューヌ王国の公主としてのエレンとの関係は、今までのような気安いものであり続けるのは難しくなってきている。それは、ブリューヌ王都でのティグルとエレンたちとの接触すらままならなかった状態にも象徴されるように、今後さらに立場が二人の間を隔てていくであろう中で、公としての戦姫ではなく個としての戦姫の役割が、同じく「弓」の使い手としてのティグルと、エレンそして戦姫の女性たちとの関係に新たな一石を投じるのではないかな、と思ってたら最後に急展開だよ!!
まー、このままだと、どうやったってティグルとエレン、離れ離れにならざるを得なかったからなあ。いやしかし、あの段階でああなってしまうと、それでおしまいというわけじゃなくて、王都ヤバいじゃん!

レギン女王、優秀ではあるんだけれど、王としては実のところジスタート王の方が老練なのかなあ、と思わないでもない。エレンみたいに舐めてる人も多いみたいだし、実際やってることは当てこすりみたいだったり狡いことは多いみたいなんだけれど、王権の維持、という観点にたつと戦姫みたいな半独立勢力が乱立してるような危うい権力基盤の上で、実に見事に立ちまわってるとも言えるんですよね。
それに比べて、レギンは権力基盤が弱いから仕方ないのだけれど、全方位の顔色を見ながらかなり弱腰に振舞っているので、今度の一件はナメられた、とも言えるのかもしれない。ただ、参加した貴族の数がかなり少なかったことや事件後に厳しい対応を取ろうとしているのですから、出来る範囲で最大限の努力をしている、とは言えるんだろうかなあ。
今更ながら、ロランが殺されたことが惜しまれてならない。彼が居るだけで、レギンの押し出しもよっぽど違ったはずなんだよなあ。こればっかりは、どれだけ武功をあげてもティグルではなかなか難しいところ。それでも、ロランの代わりを務められるのは今やティグルしか居ない以上、彼があの選択をしたのは他の余地がなかったんだろうなあ。
まあそれも台無しになってしまったのですが。

しかし、今回の騎兵軍といい、前回の工兵軍といい、ザクスタン軍の二枚看板、こと軍の将帥という観点においては、作中でもちょっと図抜けてたんじゃないだろうか。ここまで戦場での指揮能力の高さを見せた将はあんまり居なかったですぞ。バルバロッサよりも上だったよなあ。正直、よう勝てたと思うよ、ほんまに。

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