横浜ダンジョン  大魔術師の記憶 (角川スニーカー文庫)

【横浜ダンジョン 大魔術師の記憶】 瀬尾つかさ/やむ茶 角川スニーカー文庫

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世界各地にダンジョンが出現した世界―。前世で白き賢者と呼ばれた少年・黒鉄響は、無詠唱で魔法を使える特殊な力を持ちながらも、それを隠して日々を過ごしていた。だがある日、クラスメイトの真藤春菜を魔物から救ったことで「戦い方を教えてほしい」と言われてしまう。彼女はダンジョンの探索者・星繰り人だったのだ―。春菜の相棒である坂霧彩を加えた3人が、それぞれの目的のために横浜の大ダンジョンを今、攻略する!
あとがきで書かれている本作のコンセプトと、それに纏わる主人公の立ち位置がなかなかに興味深い。これは響の目的にも適うところなのだけれど、彼がヒロインの春菜たち星繰り人の舞台まで降りてくることはなさそうなんですよね。少なくとも、春菜たちが駆け上ってくるまでは主人公とヒロインたちが同じステージで戦うことはないっぽい。ところが、同時に目指すところが定まっている響に対して、春菜や彩という娘たちは目指す果てが無いのである。ただただ高みを目指し、どこまでもどこまでも行こうとしている。この構図は、瀬尾さんの初期作品である【クジラのソラ】を想起させられて、ちょっと懐かしさに目を細めている。
しかし、この主人公、逢いたい女の元に行く為に強い仲間が必要なので、春菜や彩を鍛えあげて利用しようとしているのは兎も角として、それを春菜にはっきり告げちゃうところが、誠実にゲスいw 何がゲスいって、春菜が自分に好意を抱いていることをハッキリ認識した上で言っちゃうところ。
「わたしの気持ち、もうご存知ですよね」
「うん」
「わたしに、そのひとのところまで黒鉄くんを運ぶ手伝いをしろってことですよね」
「そうだ」
酷い男である。これに対する春菜の対応が最高というか彼女もけっこうアレだよなあ、と思うところなのだけれど、これこそ瀬尾作品のヒロインだよなあ、と頷いてしまうあたり、この人の作品、自分大分好きなのよねえ。
病弱少女キャラの殻を盛大に割りまくってシモネタお色気ネタで積極的に食いにくる食わせ者の春菜の妹の冬音といい、無口系野生少女キャラを盛大に蹴り倒して、クールに悪戯っ子しまくってる彩といい、真面目で優等生ヒロインに見せかけてかなりイイ性格している春菜といい、ヒロイン衆はみんな普通とは一味も二味も違ったキャラをしていて、実に面白い。色々と人生経験豊富な響でなけりゃあ、一方的に振り回されてどうしようもなかったでしょう……あれ? すでに散々振り回されつくして悲鳴をあげている気がしないでもないですが、響は響で腹黒というか性格悪いというか、彼は彼でけっこう意地悪でサディストっぽいところもあるので、引っ張り回し合いの綱引きは拮抗してるんじゃないでしょうか。能力隠していた理由も、端的にいうとシスコンを拗らせた結果というか、賢者のわりにかなり抜けてるというか足元が疎かなところがあって、あれは愛嬌があるんだろうなあ。
【スカイ・ワールド】が完結に至り、一迅社文庫では長期シリーズが見当たらない今、瀬尾さんの本命はこれになるのかしら。現代ダンジョンものとしてはかなり面白そうな奥行きと広さを持ちそうな作品だけに、今から期待大であります。

瀬尾つかさ作品感想