仮面魔女の解放戦記《レジスタンス》 (GA文庫)

【仮面魔女の解放戦記《レジスタンス》】 すえばしけん/マニャ子 GA文庫

Amazon

「力を貸してください、秋輔様!」
異世界から飛ばされてきた魔術師の少年、阿由葉秋輔は、帝国に追われるエテイル王国の姫カティアと出会う。
カティアに請われた秋輔は、魔術で村に駐屯する軍勢を退けるが、帝国の再侵攻と村の包囲という最悪の状況を招いてしまう。絶望するカティア。だが、秋輔はそんな彼女に真逆の提案をする!
「『村一つ護れればいい』では、村一つも護れないんだよ。帝国そのものを消滅させなきゃね」
秋輔はカティアに常識を覆す意外な策を授け、共に戦うことを約束する。
「秋輔様が支えてくれるなら……、本物の護り手になれるかもしれない」
異世界から来た最恐魔術師と弱小解放軍の進撃譚、ここに開幕!!

現代から異世界への転移となると、そもそも持っていけるものは知識くらいのものでこれを実際に役立たせようとすると、相当の年月と基盤が必要になってくる。武器や道具の類は補給が続かなければすぐに消耗してしまいますから、継続的に使用できるものというのは必然的に限定されてしまう。異世界転移もので、現地に到着してからそこでチート能力を獲得する、というパターンはこうして考えてみると理に適っているのかもしれません。
ところが、昨今チラホラと見受けられるようになったパターンの一つがあって、これが現代からの持ち込みで徒手空拳にも関わらず、即座かつ継続的に身を守る武器にもなり、立場を得るための手段ともなり得るのが、異世界における魔術魔法の類とは術式大系を異にする、或いは世代が数百から千年単位で先進している最新魔術・異能を習得している魔術師・異能力者が異世界に転移してしまう、というケースである。
いわゆる、現代舐めるなファンタジーではなく、現代異能舐めるなファンタジー、とでも言うべきか。
転移する異世界が、おおよそ中近世時代が多いこともあってか、科学知識や社会の成熟度の差を以って現代人としてのアドバンテージを得ているのを踏まえるのなら、魔術魔法の類だって数百から千年の研鑽の差があるのなら、或いは現代科学とのコラボレーションなどから、それこそ魔術理論なども格段の差が出来ているのもありだろう、という考え方からくる設定様式だけれど、それこそ「魔術は古い方が強くて深く鮮明である」という世界観でもなければ、決して突飛な考え方ではないだろう。
でも、そういう魔術の捉え方は、魔術というものを単なる技術の一つとして捉えているだけとも言えるし、魔術師は技術者に過ぎない、と考えているとも言える。
では本作はどうなのか、というと……むふふふ。
いや、うん、面白いね。最初は、魔術師という存在を憎み、呪っている人たちが語る非人間的な魔術師という存在の在り方と、主人公の魔術師である秋輔が語り、その言動で指し示す魔術師の姿とは全然違っていて、彼ら魔術師を憎むものたちが考えている魔術師像は、彼らが目の当たりにした一部の極端、或いは過激な人倫から外れた魔術師像を、すべての魔術師がそうだと誤解し思い込んでいるものなのだ、と思ったんですよね。思うよね、ここらへん。

ところがですよ、途中から段々と「あれ?」となってくるんですね。
秋輔くんは、すえばしさんの作品の主人公としては珍しいくらい素朴で善良。しかし、意思は強く、柔らかい性質とは裏腹にさすがは巨大な組織の長へと担ぎ出されただけあって、度胸も肝も据わっていて頼もしい、いわゆる真っ当な方向に芯が通った主人公、に見えたんですね。
おそらく、彼に助けられ彼を師事するようになったカティア、そしてはからずも異世界で同行することになってしまった魔術師殺しのテロリストである少女も魔術師への不信感から警戒は解いていないものの、さてどこまで違和感に気づいているか。いずれにしても、彼の、秋輔という魔術師の性質を見た目通りにしかまだ認識していないっぽい。
だけれど、なんかね、変なんですよね。見ていると、段々肌が粟立ってくるわけです。言っていることも、やっていることも一貫していて何も変わってないんですよ? 一切、ブレてないし、最初に宣言したとおりに彼はとてもやさしい笑顔を、きっと内面も優しい気持ちで満たしながら、カティアの背中を支え、見守っているのですけれど、それを見ている読者のこっちからすると、当初と最後では場に流れている空気感が、その冷たさが全然違うわけですよ。
いつからだろう、こんなに「ゾッ」と寒気を感じていたのは。
そして、最初に魔術師喰らいの雪火が語っていた、いささか憎しみ余って思い込みが強すぎて、秋輔のような魔術師を見ていると、滑稽にしか聞こえなかった非人間的な魔術師像が、段々と色彩を帯び、肖像を結んでそこにいる温厚そうな少年の姿に重なっていったのは、いつからだろう。
いや、雪火の語るような邪悪で利己的で欲深なわかりやすい悪いやつ、というのが魔術師というものの在りようだというのなら、むしろ安心できただろう。
彼女らは、自分たちが憎み恨み許すまじと怒り狂っている対象が、どんなものなのかを本当にわかっているのだろうか。それとも、あまりにも彼が異端すぎるのか。少なくとも、彼の周囲にいた彼の仲間たちは、話を聞く限りでは「同類」の匂いがプンプンするのだけれど。

ともあれ、秋輔にとって魔術師として誓ったものは、その存在意義そのものである。それはきっと、自己満足ではあっても善意に近しいものなのだろう。だが、それは果たして善悪の括りの中に則っているものなのか? 人倫というものを介しているのか?
彼をして魔術師の代表と見るのは、やはり間違っているのかもしれない。その真の在り方を見て脳裏に思い浮かんだのは、魔術師などではなかった。

それは正しく<悪魔>の在りようというものだよ、秋輔くん。

幸いなるは、その悪魔と契約を結んでしまったのが、哀れな贄などではなく、強き意思と信念を持ち、自ら考える力を持つ「王」であったことか。
すえばし作品の特徴の一つとして、主人公こそがラスボスであり、生徒たる少女は教師であるその主人公を上回り乗り越えて、逆にその人が抱え持つ破綻や虚無から救い出す、というのがあるんですよね。その意味においても、カティアはライトスタッフの持ち主であろう片鱗を随所に見せている。いつ、秋輔がラスボス化するかはまだ予断を許さないけれど、それがそう遠くない未来だとしても十分間に合いそうな成長の気配を見せているのが頼もしい。

いずれにしても、本作はすえばしさんの物語りの髄の部分をしゃぶりつくせそうな匂いがプンプンしている作品なので、期待大でありますよ。

すえばしけん作品感想