セブンスターズの印刻使い 1 (HJ文庫)

【セブンスターズの印刻使い 1】 涼暮皐/四季童子 HJ文庫

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伝説の冒険者集団《七星旅団》の六番目にして、魔力を制限する呪いにより絶賛開店休業中の魔術師アスタ=セイエル。
彼は解呪手段を求め入学した魔術学院で選抜者試験に巻き込まれたのを切っ掛けに、再び戦いの表舞台に立つことを決意する。
――最強の一角と謳われた印刻使い《紫煙の記述師》が紡ぐダンジョン系王道ファンタジー、ここに開幕!
ウェブ版は既読。文庫になると、一巻ではここで終わってしまうのか。ぶっちゃけ、この巻で進行した分ってほぼ序章くらいのものなんですよね。実はキャラ紹介にも至ってないんじゃないだろうか。何しろ、主人公のアスタを含めて全員、「何も見せてない」に等しいわけで。いやでも、先々を知らない人にとってはこれでいいのか。現時点で彼ら彼女らの見せ札は、「このくらい」で適当なのでしょう。考えてみれば、適時適量見せるべき時に伏せていた事自体伏せていた札を開いてみせるタイミングの良さこそが、演出のハッタリを映えさせるものですしねえ。
私がこの作品で好きなのは、まさにそのハッタリの効かせ方なわけでありまして、最初から無造作に垂れ流ししてしまっていたら、そりゃあイカンわなあ。だから、最初はアスタにしても、他の四人の学生たち、シャルにしても、レヴィにしても、ピトスやウェリウスにしても、この段階ではこの認識で良いわけだ。このくらい、と思っていたそのキャラの目分量を、どんどんひっくり返されていくからこそ、痛快感がもたらされるものなんですよね。実際、この学生四人のうちの二人に関しては、最初の印象を二度三度と盛大にひっくり返されて、まんまと絡め取られましたし。

さて、肝心のアスタはというと、最盛期の力を失っているわけですけれど、彼の強さの面白いところはステータス的な強さとは全然違う、一般的なルールの範疇外のところにあるんですよね。上ではなく、外、というべきか。これは盤上で戦っている人にはまったく認識できないというか意味がわからない土俵上のことで、それこそ「何をやってるかわけがわからない」のである。これは恐ろしい。何しろ、意味がわからなかったらどう対処したらいいかわからないし、そもそも何をされているかわからなければ、対応しようと思うことから出来ない可能性すらある。
この作品の面白いところは、凄ければ凄くなるほど、理解できない意味不明さ、になっていくところか。起こる現象は理解できても、何をどうやってどうすればそうなるのか、さっぱりわからない、という風になっていく。わからない、理解できない、意味不明、ということはすなわち、「底が知れない」という事に繋がるわけで、やはり底知れ無さというのはシンプルにキャラクターの格に対するハッタリに効果的なんですよね。こういうハッタリを、主人公だけではなく、わりと満遍なく色んなキャラクターに散りばめているので、目線を引っ張られるキャラがそれこそ多様にいるのである。
一方で、能力的には底知れなくても、内面的には過去に苦しみ、現状に悩み、先を見て迷い、一歩一歩進んでいたり、実は立ち止まったままだったり、がむしゃらに足掻くばかりだったり、と地に足をつけて、というのはまた違うんだけれど、色々と思い悩む若者たちでもある。勿論、何を考えているかわからない得体のしれない部分をそれぞれ持っているんだけれども、そんな余人にはうかがい知れないモノを抱え持っている、という不透明さもまたキャラの魅力というもの。
魅力的なキャラがたくさんいる、というのはそれだけで作品そのものの武器になり、アドバンテージになりますしね。

とりあえず、今回は盤上に幾つかの駒を箱から出して転がした、くらいの段階で駒の配置すら済んでいない状態なので、話が話として動き出すのは次回以降となるでしょう。とりあえずは、ピトスの本領発揮待ちかなあ。