はたらく魔王さま! (13) (電撃文庫)

【はたらく魔王さま! 13】 和ヶ原聡司/ 029 電撃文庫

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天使と勇者の母娘喧嘩は落ち着いたものの、依然仲が悪いままの恵美とライラ。二人の関係にうんざり気味の真奥に、ライラから異世界を救うための“お仕事”の内容が伝えられる。しかしそれに不信感を抱いた真奥は、ライラに自宅を見せろと提案。全力で拒否するライラを尻目に、皆で練馬の自宅へ行くことを決める。
一方千穂は、恵美のために動く真奥を見て落ち込んでいた。二人が仲良くなることを望んでいたはずなのに、ヤキモチを焼いてしまったのだ。しかも二人が異世界に帰ってしまうのではないかと、授業も手につかない。その日の夜、思いがけず梨香から声をかけられた千穂。芦屋と食事に出掛けていたという梨香と、「悪魔に恋する乙女達の女子会」をすることになって――!?
女子会の行方は、そしてライラの自宅で真奥が目にしたものとは!? 庶民派ファンタジー、異世界の真実に迫る第13巻!

……面白いなあ。いや、なんだろう。今回いつもにもまして本当に面白く感じたんだが、なんでなんだろう。なんちゅうかね、千穂にしても恵美にしても梨香もベルも、女性陣の自分でも制御できない感情の揺さぶられ方がねー、生々しいというかダイレクトなんですよね。迫真、というべきか。元々、気持ちの動き方や感情表現、心理描写など細やかで丁寧なものがあったからこそ、この作品の肝ともいうべき「生活感」に、登場人物たちが溶け込んで生きている生っぽさがあったのだけれど、ついにそこに「恋愛」という要素が女性陣のサイドから怒涛のごとく押し寄せてきたわけだ。二桁の巻数を費やした上での満を持しての大攻勢である。それだけの積み重ねと下地をこしらえた上での、発現であり一線を越えて踏み越えてきたわけだ。そりゃあ、面白くないわけがない。まさに、盛り上がりどころ、ですもんねえ。
それもね、これまでずっと仲良くなって親身になって付き合ってきた女性陣が、そのまま仲良しこよしのままじゃなくどうしようもなくお互いの存在を刺激しあうものになってきたわけですよ。勿論、これまで築き上げてきた仲間とか親友とかを通り越した、一種の家族みたいな関係は崩れていなくて、お互い好意と敬意を抱いたままなんだけれど、ただ一点、同じ人を好きになってしまった、ということが彼女ら自身の感情をどうしようもなく刺激して波打たせてしまっている。相手をどうこう、じゃなくて自分に対して大きく意識を持って行かれているあたりが、彼女たちらしいところなんですが。
このあたり、真奥は男として非常に難しい舵取りを強いられる場面なんですけれど、確かに千穂ちゃんに対してかなり一方的に負担を押し付けていたのは間違いないんだよなあ。周りから寄ってたかって叱られるのも無理からぬところなんだけれど、じゃあどうすればよかったのか、というと首をひねらざるをえないところもあって。まあ、お叱りを受けた内容が千穂に対するフォローが足りない、という部分だったので、これはもう真奥当人も納得済みの不徳。
で、あるのだけれど、このへんの恵美の方の感情も面白くてねえ。もう、めちゃくちゃ面白くてねえ。真奥とライラの話を立ち聞きしてしまっている恵美の、あのシーンの心の動きは本当に面白かった。
あの後の、ベルに恵美が吐露した気持ちの形容は、あれは表現としては絶賛に値すると思う。ものすごく具体的なんですよね。持って回った言い回しでありながら、あれだけ生々しく恵美が今現在抱いている真奥への気持ちを表現したものは、なかなかないんじゃないだろうか。あれ、変にダイレクトに言うよりもよっぽど気持ち伝わってきた。伝わってきたからこそ、それを聞かされたベルはベルで、あの瞬間どれほどいろんなことを考えたかを想像してしまって、それがまたゾクゾクするわけですよ。

さて、それぞれの恋愛模様が加速し始めている状況で、だからこそ再びスポットがアテられつつあるのが、ただの人間と、それ以外の悪魔や天使たちといった人外の存在との種族差である。今、真剣に自分たちの関係の先を考えるようになった時に、どうしてもこの人種差という厳然とした壁の存在が突きつけられてきたわけですね。一方で、ライラと恵美パパの人種を超えた夫婦の存在、というものも、彼らの登場によって実例を伴って現れてきたわけで。
面白いのは、同時に明らかになりつつある世界の真実の内容が、悪魔と天使が元々「人間」と同じ存在だった、というところだったりするんですよね。一つのテーマに対して、様々な方向から提議が集束していくんですよね。面白い。

しかし、今回色々と激動にして驚愕の真実が明らかになりましたけれど、やっぱりライラが一番度肝抜かれたですよ。うん、びっくりした。
真奥たちが彼女に抱いていた不信感のひとつはよくわかるもので、つまるところ彼女にだけ地に足の着いた生活感がなかったんですよね。ちゃんと、この地球に生活基盤を築いている節が感じられなかった。仕事して収入を得て、衣食住を手に入れて、生活している気配が感じられなかった。これがないものだから、彼女は真奥たちが守ろうとしている生活というものに対して、根本的に理解が及んでないんじゃないかと、不信感を持ってたんですね。ところがどっこい、彼女は彼女でちゃんとこの日本で住むところと収入を得るための仕事を持っていたわけです。思っていた以上にちゃんとした。もう凄いわ。この作品、凄いわw
ライラみたいな存在ですら、ちゃんと生活実態を持たせているとか、すごいわw
これはもう、有無を言わせず真奥も恵美も納得したんじゃないだろうか。一発で不信感の大半は吹っ飛んだ気がする。とりあえず、話をちゃんと聞くくらいの聞く耳を持つ納得は得たんじゃないだろうか。

それから、今回ジャケットで大いに自己主張している梨香さん。ついに芦屋との関係に自ら踏み込んでいった彼女ですけれど、なんちゅうかこの人、姉御やねー。想像していた以上に、根性あるわ。正直、芦屋との関係は難しいんじゃないかな、と思ってたんだけれど、今回彼女が見せてくれた色んな顔は、凄く良かったんですよね。なんか、凄く好きになったわ、この人。決して千穂ちゃんに見劣ってないと思う。敬語とかすっ飛ばした、あの素の表情は、思ってたよりも芦屋とお似合いな気がするんだよなあ。
うん、見る限りではこれ、十分脈ありな気がします。当人、もう完全に斬り捨てられたつもりみたいですけれど、むしろあれ、逆にあそこで芦屋の方、撃ちぬかれた可能性すらあるんじゃないか?
なんか、芦屋は芦屋で妙な動きしているっぽいですけれど。千穂が気づかなかったら、読んでるこっちはさっぱり違和感感じなかったレベルですけれど。これって、先日芦屋がさらわれてエンテ・イスラに連れて行かれた件、けっこう重要な伏線になってくるんだろうか。

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