飽くなき欲の秘蹟(サクラメント) (ガガガ文庫)

【飽くなき欲の秘蹟(サクラメント)】 小山恭平/ぺらぐら ガガガ文庫

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僕――世杉見識は目を放すとすぐサボる、意識の低いアルバイトである。自慢することではない。
バイト開始当初は、「能転売業なんてうさんくさ過ぎる、すぐに逃げよう」なんて思っていたけど、異能関係者は変わっている人が多くて、ちょっと楽しいと感じている。
異能というのは――超能力とか秘蹟とか、そんな呼ばれ方をする、とにかく不思議な力のことだ。それは人の願いと共に現れ、いつのまにか消えていく、一時の奇跡である。
そう稀少なものでもないが、誰もが自由に手にできるわけではない。
だから、持たない者は皆こう言う――自分も欲しい。
欲しいと思う人がいるのなら、そこにビジネスチャンスは生まれる。
異能を売りたい人と、異能が欲しい人を結ぶお仕事――異能転売業はこうして成立した。
僕の働く秘蹟商会もそんな異能転売業社の一つである。
店舗は埼玉の片隅にある古い建物。働いているのは店長とアルバイトの僕二人だけ。まだまだ規模は小さいが、明日の成功を夢見て僕らは日夜奮闘している。

「さてと・・・・・・
ポンコツかわいい店長のために、異能力保有者を捜しに行きますか」
第9回小学館ライトノベル大賞審査員賞受賞作。
ガガガ文庫らしい作品だなあ。そして新人作品らしい作品でもある。プロット自体はきちんと最初から最後まで決めていたんだろうけれど、筋立てとは別に序盤は物語が漠然としてるんですよね。描きたいことをどう書くかを手探りで手繰り寄せようとしてる感が伺える。それが、後半に行けばいくほど集束していき密度が濃くなり、鮮明化していく。面白い。
やはり特筆すべきは主人公の見識だろう。事故によって、脳の欲を生み出す機能を損壊してしまい、生存能力を喪失してしまった彼は、「欲」を制御できる外部機関たる「杖」を与えられたことによって、人らしさを保っている。しかし、杖によって自由に欲のあるなし、強弱をコントロール出来る彼は人格も自在に変化させることが出来、それが器だけの中身の無い空っぽな人間の残骸である、というアイデンティティーの欠落というコンプレックスを抱いている。そのせいか、彼の言動はどこかふわふわとしていて芯がない。同時に、何か取り縋るものを求めるようにいつもどこか切実さを内包している。
異能とは、その人が強く求めたものが結実したもの。ある意味、欲の結晶と言っていい。転売目的とはいえ、他人の欲の結晶を買い求めて回る彼の姿は、飄々としていてこだわりなくビジネスライクに見えるのだけれど、ふと異能を持つ人の事情に踏み込んでしまった時、無視できないままその人の欲の果てへと手を伸ばしてしまう。欲、と言うと卑俗な感情、とレッテルを張りガチだけれど、それは人間が生きる上での根源的な欲求であると同時に、人が人間らしく生きるための心を保つための光でもある。時に、欲は祈りに似ているのだ。だから、異能を求めてその人の事情へと踏み込んでいった時、話は異能云々を脇において、その人の心の在りように対することになる。
そこにあるのは悪意であり打算であり、醜い人の有様だ。どうしようもなくクズでゲスでしかない人間が確かに存在することを思い知らされる。そういった人間たちによって、際限なく傷つけられていく人達がいる。
しかし、そんなゴミの山のような人の在り方の中からも、キラキラと煌く宝石のような価値のあるものが生じる時がある。
そうして、欲を無くした主人公は残骸の中で光り輝く欲の結晶を見つけ出し、その過程で壊れ果てた自分の中にも同じ光があることを教えられ、自分と関わった人たちの中にそれぞれ「世杉見識」という人間の心が産み落とされている事を知り、それらを照らし合わせることで己が欲を見つけていく。
祈りであり願いである「欲」を見つけ、それを満たした時、彼はようやく「人間」に戻ることが出来るのだ。それは、自分とは違う形で「器」でしかない事を強いられた女性との間に巡りであった運命であり秘蹟なのだろう。
偽物の中に本物を見出す物語。欲にこそ、正しき人間の姿を求める、人であろうとする、つまりはそんなお話。