D9―聖櫃の悪魔操者― (3) (電撃文庫)

【D9 聖櫃の悪魔操者 3】 上野遊/ここのか 電撃文庫

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悪魔憑きの少年ソーマと少女悪魔メルヴィーユ。二人は旅の仲間ファムにいざなわれ、“箱船の守り人”のアジトを訪れる。しかしそこは、何者かに壊滅させられた後だった―。襲撃者は、世界を守るはずの教会の人間。ソーマは、信じてきた教会の闇を暴く決意をする。一方聖都では、教皇ディアドラが世界の滅亡を予見。箱船が人々を救うとし、民衆を街へと集めていた。果たして古の伝説“箱船”は、人々を救うのか、それとも滅ぼすのか。人と悪魔の最後の戦い。ソーマとトーマ、因縁の兄弟の邂逅。すべては教会の総本山、聖都で決着する―!少年と少女悪魔の世界を救う旅、堂々完結!
仇であり宿敵であり絶対の壁であったトーマがこうなってしまったのは、残念と思う部分もあるのですが、兄弟の相克として捉えるならば単に正面からぶち当たってぶち破るよりも複雑な切なさがあってよかったんじゃないかと思うんですよね。あれを目の当たりにした時のソーマの混乱とやりきれなさは感情がぐるぐると渦巻いて行き場をなくしている感がひしひしと感じられて、実に良かったんですよね。仇であり敵であったからこそ、そのまま保たれていたものもあると思うんですよ。尊敬し、敬愛していた兄という肖像。それは、憎悪スべき絶対否定すべき敵となっても、何をやっても跳ね返されうわまられ見下され、太刀打ち出来ないんじゃないか、と思わされる巨大な壁として、ある意味変わらぬまま尊敬していた頃と同じようにそびえ立っていたんじゃないだろうか。それが、自分の手ではなく、ガラガラと崩れ去るのを目の当たりにしてしまった衝撃。そうして再びこみ上げてくる、兄への愛情。憎んでも呪っても、それでも奥底にこびりついて離れなかった兄への親愛。あのぐちゃぐちゃになってしまったソーマの感情は、実に堪能スべき価値のある描写だったように思う。
兄とその婚約者で好きだった幼馴染への想い。それは思っていた決着とはならなかったけれど、ケリはつけれたと思うんですよね。考えていた結末とは違っていても、だからこそ昇華できたんじゃないだろうか。そうなった時、ソーマに残されていたのはあれからずっと傍に寄り添っていてくれた悪魔の少女との絆だったわけである。メルはその辺意識していなかったみたいだけれど、後半にはいってソーマはずっとメルと自分との関係について向き合っていて、世界が滅びようとしている瀬戸際にあって、いやだからこそか、メルのことを自分の中心に置いていたように見える。言動がいちいちメルのこと大切にしてたからなあ。まあ真剣に受け止めればう受け止めるほど、肝心のメルの方がビビってヘタレるという有様だったわけですけれど。あれほど積極的に見せておいて、いざとなるとビビってしまうあたり、実に可愛い娘さんである。
ともあれ、後半はもうクライマックスの盛り上がりは半分くらい二人のラブストーリーみたいになっていて、残念ながらファムの方は入り込む余地なかったですねえ。それはファム自身も自覚していたみたいで、無駄な足掻きをみせなかったところは潔いとは思うのですけれど、気持ちの良いヒロインだっただけに勿体ないと思わないでもなかった。でも、今回に関してはメルがずっと可愛かったからなあ。ファムとメルも随分仲良くなってある意味ソーマ相手よりもイチャイチャしてた感があったので、それはそれで……うん。
いろいろ短縮してまとめたっぽい急ぎ足のラスト突入でしたけれど、まさにカタストロフ! と言わんばかりの世界滅亡の危機の迫力は、クライマックスの盛り上がりとしては十分だったんじゃないでしょうか。
二人の関係についても、綺麗にまとめてくれましたし、満足のハッピーエンドでした。
もうあれだね、お幸せにー。

シリーズ感想