かくりよの宿飯 二 あやかしお宿で食事処はじめます。 (富士見L文庫)

【かくりよの宿飯 二 あやかしお宿で食事処はじめます。】 友麻碧/Laruha 富士見L文庫

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あやかしの棲まう“隠世”にある老舗宿・天神屋。女子大生の葵は、その大旦那である鬼神のもとへ、亡き祖父の作った借金のかたに嫁入りさせられそうになる。持ち前の負けん気から、あやかしたちの前で「借金は働いて返す」と宣言した葵。九尾の狐の銀次に助けられつつ、得意の家庭料理を武器に、ついに天神屋の離れに食事処「夕がお」を開店させた。だが、鬼門中の鬼門といわれるその場所は、一筋縄ではいかない。立地条件の悪さ、謎の営業妨害、そして予算削減など、「夕がお」の前途は困難ばかりで…!?
これは飯テロだなあ。読んでいてお腹が空いてしまう、というタイプじゃないんだけれど、「あっ、これは一口だけっでも摘みたい」と思わずヨダレが溜まってしまうタイプ、というべきでしょうか。
最近、食事描写や料理の描写が実に素晴らしい作品が散見されるわけですけれど、本作は食堂や凝った料理と違って、小料理屋の品が良いけれど気軽に箸をつけられる、まさに家庭料理の延長という風な料理なんですよね。でも、家のご飯に出てくる料理そのままではなくて、一品一品趣向が凝らされているのですけれど、それもほんのりと愛情篭った一手間、という感じがして、実に優しい風味なわけです。
なるほど、旅館の母屋から少し遠い離れの、静かな環境の中でトコトコとお湯が湧く音を聞きながら、じっくりと味わう手料理の数々。黙って静かに味わうもよし。連れ立ってきた相方と談笑しながら舌鼓を打つもよし。作中で、隠れ家みたいな雰囲気を味わえる店構え、なんて評価を受けているけれど、葵のひらいたお店はいっぱいのお客さんで満員になって大忙し、というよりも常連さんが落ち着いてくつろげる空間、というお店なんでしょうね。これなら、母屋の会席料理中心の高級感ある食事ときっちり住み分けできるんじゃないだろうか。
しかし、根性の据わった娘さんである。色々とへこたれても仕方ないような境遇に置かれても、負けん気が強くてくじけない。落ち込んでも引きずらない。前向きであっけらかんとして不敵に笑ってみせる、実に粋な姐さんである。こういう人って、他人へのアタリもキツかったりするのだけれど、彼女の場合打てば響く鐘のような溌剌とした部分と、包容力を感じさせるふんわりと包み込んでくれる柔らかさが相まってあるので、付き合えば付き合うほど好かれるタチなんでしょうね。気が強くもあるので、喧嘩を売られたら腕まくりして買う方なので、ナメられないですし。妖怪だろうと人だろうと区別なく、誑すタイプだ。亡き爺さんは、大いに好かれはすれども大いに嫌われもしたというので、その意味では葵の方が得なんだろうけれど。いや、純粋に彼女の場合は徳なんだろうなあ、これ。
そして、自立した女性でもある、と。今のところ嫁入りに反発しているのって、大旦那への反発じゃなくって借金の方に、というところなんですよね。見ている限りでは、大旦那個人に対しては懐いている、と言ってもいいんじゃないだろうか、というくらい屈託なく接している。大旦那からすると、自分と結婚したくない、と決然と言い放ちつつ、自分に対してはわりと気安く接してくるので、若干戸惑っているふしもある。好き嫌いに関しては暖簾に腕押し、というかあんまりこの娘、ちゃんと考えてないみたいだし。
キーワードは、幼いころに助けてくれた妖怪が誰か、というところなんだけれど、順当に大旦那さま、がその妖怪かと思ってたんだけれど、あんまりにも順当すぎてちょっと「あれ?」と思うようにもなってきたんですよね。銀次の反応が色々と怪しすぎて、一周回って怪しくないんじゃないかと思ってたんだけれど、さらにもう一周回ってやっぱり怪しくなってきたw

一巻感想