我がヒーローのための絶対悪(アルケマルス) (ガガガ文庫)

【我がヒーローのための絶対悪(アルケマルス)】 大泉貴/おぐち ガガガ文庫

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日本のどこかにある地方都市、月杜市。どこにでもある規模のその街には1つだけ、他の街とは違っているところがある。それは1人のヒーローが街を守っているというところだ。

普段は女子高生として生活している少女・澪。彼女は悪の組織『禍嶽社リヴァイアサン』の怪人が街の平和を乱すとき、ヒーローに変身し日夜戦うのであった。そんな澪のヒーロー活動を見守る幼馴染の少年・武尊。なんの取り柄もない平凡な高校生である彼だが、武尊にはある秘密があった――それは、彼こそが禍嶽社リヴァイアサンの総帥・ヘルヴェノム卿なのである。武尊の目的。それはガイムーンとして生きる宿命を背負わされ、悪と戦わないと生きられない澪のために、宿敵として立ちはだかり続けることだった。

悪の首領とヒーローの関係は2人をどんな運命へと導くのか。

最愛の者を守るため、最愛の者と戦い続ける、正義と悪に彩られた青春ヒーローピカレスクロマンここに誕生!
こ、れは……えげつない。最初から完全に詰んだところから始まってるじゃないですか。詰将棋の詰められてる側に立たされたような状況。しかも逆王手だけは絶対にしてはいけない、という制約付き。いや、唯一の救済ルートが悪として正義を挫くことなのか。だがそれですら、ハッピーエンドには辿りつけない。そのエンドを許してもらえない一線を、澪も武尊も越えてしまっている。その罪に耐えて幸せを掴むには、ふたりとも余りにも善い子すぎる。
武尊が大切なものを無くして失くして亡くして、全部打ち捨ててそれでも守ろうとしているモノは、多分彼女にとっては恐ろしく空虚なものだ。彼女が望み願いささやかに祈って守ろうとしているものとは、決して相容れない結末だ。相反する絶望だ。武尊がもし、それを叶えたとしても、彼が願う澪の幸せは絶対に訪れない。絶対に、だ。絶望的なのは、武尊自身薄々それを理解してしまっている事なのだろう。それでも、許される選択肢だけを辿って行くと、それを選ぶしか無いのだ。本当に何もかもを斬り捨てて最低限残される残骸だけが、あらゆる可能性の中でもっとも幸いなのだ。
無残極まる現実だ。
そして、この悪の首領はこれから切り捨てていくものに対して、無感情では居られない、冷酷でも冷静でも居られない、あまりにも優しすぎる、普通に善い子すぎる真っ当な子なのだ。それでも、血の涙を流しながら、呪詛を、怨嗟を、裏切られた絶望を受け止めながら、唯一無二の為に、おそらく残骸しか残らないモノの為に、それらを殺していくのだ。その、なんと救われないことか。
彼の、あまりのも残酷な絶望を、知ってしまった娘が居るというのもさらに極悪である。彼女は武尊の絶望と悲しみに触れ、それに共感し、同情し、それを尊いものだと思ってしまった。それに、殉じる覚悟を決めてしまった。彼女は、きっとその時が来ても、恨んですらくれないのだろう。
夜はきっといつか明けるのだろう。でも、闇は決して晴れない、光を当ててすらより濃く深くなるだけだ。悪の道は、ひたすらその闇を降りていく道。彼は、自ら望んでその闇の中を征く。ハッピーエンドに背を向けて、絶望しかないのだと知りながら、それでも欠片しか残らないだろう救いを求めて、望んで破滅の道を征く。
悲しい悲しい、正義の味方を救おうとする悪の物語だ。

大泉貴作品感想