偉大なる大元帥の転身 出直し召喚士は落第中 (ファミ通文庫)

【偉大なる大元帥の転身 出直し召喚士は落第中】 竹岡葉月/ともぞ ファミ通文庫

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平凡な中学生だったケータが、異世界ディルスマグナに召喚されて早三年。フレッドフォード召喚学院に通うケータには、ある秘密があった。それは彼が魔王の腹心、大元帥ヴェーレスとしてかつて名を馳せていたこと! ヒトと魔族が和平を結んだ後、正体を隠し、強大な魔力を封じて元の世界に戻る方法を探すケータだったが……。ヒトの操る精霊召喚術はうまく発動せず、討伐するべき魔物はこっそり逃がし、ついた渾名は、任務達成率ゼロパーセント。しかしそんなある日、優秀な生徒だけを集めた遠征調査隊のガイドに任命される。その行き先はなんと、魔王軍の戦略拠点要塞ベルタ――元自分の城で!? 魔王の腹心が、落ちこぼれの戦術召喚士にジョブチェンジ!? 波乱尽くしの出直し異世界転戦記、堂々開幕!
この人に限らないんだけれど、超ベテランの粋に達している作家さんが流行りのジャンルに手を出しても、この流行が初乗りの人たちと比べるとやっぱりちょっと話の雰囲気、というか根本からの話の作り方が違うんですよねえ。基礎構文が異なっているというか。ベーシックとなる部分がこれまでの蓄積からなる経験によって形成の仕方、積み上げていくやり方のルールが違うんですよねえ。なので、同じような話の展開や構図だったりしても、独特の気配を纏っている。
……面白い。

しかしこれ、魔王軍の大元帥から落ちこぼれ学生に転進、というと思惑あっての事ならまだ格好つくのですけれど、実際の様子を見てると……殆ど家出だよなあ(苦笑
気持ちはわかるんだけれど、拗ねてるようにしか見えない可愛らしさが透けて見えてしまう。魔王さまの思惑が、そもそもどうして人間サイドと戦争していたのか、などの理由もわからないので、どうして和平を結ぶつもりになったのか、という理由も全然想像……出来ないわけではないのだけれど、根拠となる情報がさっぱりだからなあ。そこは魔王さまの気持ちも察してあげなよ、とは言えないか。
僅かな登場シーンから窺い知る限りでは、どう見ても薄幸の病弱系美少女でしかない魔王さまなんだけれど、強力なカリスマ性とかリーダーシップがある方には見えないので、やっぱりケータがやり過ぎてしまったんだろうか。いずれにしても、魔王さまと最終目標のすり合わせ、みたいなのが出来てなかったのは確か。ケータからすると、魔王さまの為に頑張ってきたのに、少なくとも魔王さまが望んでいると思ってその方向に頑張ってたのに、突然ハシゴを外されてしまったのだから、まあ不貞腐れる気持ちはわかるんですよ。そこで、クーデターだとか本意を問い詰める為に殴りこみだ、とならないあたり健全なのか、子供っぽいのか。子供っぽく見えるからこそ、家出に見えちゃうんだけれど。
だいたいさ、あの条件ってどう考えても最初に条件を出された段階で条件クリアされてますよね?
ぶっちゃけ、後続出演のヒロイン二人ではちょっと条件クリアできてるとは思えない。色々あって、好感持たれだしているんだろうけれど、さすがにあの条件をクリア出来てるとは思えない。だとしたら、その条件クリアしてるのって、条件を提示してみせたあの人としか思えないんですよね。
そう考えると、拗ねてないで戻ってちゃんと話しあおうよ、と言いたくなるわけですよ。あの魔王さま、どうにも言いたいことをグッとこらえて胸に秘めちゃうタイプに見えるし。拗ねて実家に帰る、と言い出して飛び出そうとする男の子に対して、引き止めることの出来るようなタイプに見えないんですよね。でも、直接言わないけれど、何もしないわけではなくて凄く遠回しにあれこれしたり、アピールしたり、と面倒くさい人っぽいんだよなあ。和平だってさ、先に大元帥に言っとけよ、てなもんでしょ? それを、直接言わないで先に人間側と話まとめちゃって、結果だけ見せてハイ終わり、とかあれ問答無用で結果出して止まらざるを得ない状況を用意しないと、ケータに止めて、と言えなかったんじゃないかしら。
自分、そういう面倒くさいヒロイン大好物なんで、あんまり放置しないでかまってあげて欲しいんですけどねえ(苦笑

終始ギスギスしたままで、本当に追いつめられてから素の顔を剥き出しにしないと生き残れない状況で、やっとキャラが立ってきた学園の実力者たち。逆に、次からは最初から生死の境を一緒にくぐり抜けた戦友たち、としてある程度気心の知れた状態で始まるので、男女問わずキャラがたくさん出てきましたけれどけっこういい感じの仲間たちとして動けるんじゃないかしら。
その意味では、ライラが戻ってこれなかったのは地味に痛い気がする。学友たちを心配して危険も顧みずに戻ろうとしていたのに、あれだと一緒に死にかけた他のメンバーたちとちょいと差が出てしまうのではないかと。いい子なだけに、ちと心配。

竹岡葉月作品感想