加賀100万石に仕えることになった (カドカワBOOKS)

【加賀100万石に仕えることになった】 シムCM/上田夢人 カドカワBOOKS

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生まれかわって気がつけば戦国時代。前世の記憶を使って信長に仕えて、秀吉に近づき、家康に従って東軍についてオレ勝ち組!と思いきや、開始前に野望が潰えて寺で坊主にジョブチェンジ。そんな折、ひょんな縁から前田利家に仕えることに。ここからオレの武勇伝が始…まらない!?殿は脳筋。領土は問題だらけ。大殿からは無理難題。年貢納入と補給物資管理と悲鳴を上げる男、三直豊年(←オレ)。ソロバン片手に文句をたれつつ(数字と)戦う男の物語である。

ウェブ版既読。ウェブ版では一話一話が少量でひたすらデスマーチしている印象だったんだけれど、まとめて読むとトシ君が地道にやってる仕事が覿面に効果をあげているのが如実にわかって面白い。
軍師モノというと、だいたい戦場で采配を振るうか或いは戦略を立てる立場に立つか、なんだけれどこの主人公の三直豊年の役割は戦場に立たない事務官僚。ひたすら蔵に篭って兵糧と金の勘定をする会計管理者なのである。いや、マジでひたすら勘定してるんですよね。内政官、なんて言ったらあれこれ未来的な画期的な政策で生産力を爆上げしたり、なんて仕事を期待してしまうのだけれど、彼が行っているのは本当にひたすら兵糧管理なのである。
この当時の税収が主に米であることを考えるなら、税収・総資産・兵站全般の管理のすべてを担うことになるのである。事実上、前田家の進退は彼の差配次第になってるんですね。勿論、前田家の戦略方針は信長
からの指示に基づくんだけれど、どんぶり勘定だった兵糧管理が、彼の労力と彼が構築したちゃんと覚えたら誰でも使える管理システムと彼が育てた内政団によって、大きな無駄をなくした形で自由に動かせることになったことで、前田家という戦力の自由度が爆上げされた結果、織田家の中での前田家の地位というか使い勝手が滅茶苦茶あがってしまったんですよね。んでもって、いつの間にか史実における柴田勝家ではなく、前田家が北陸方面軍を担当することになってしまっているのである。
これに関しては、織田信長の見る目というか、視点の置き方、適材適所の駒の配置の仕方が抜群な気もしますけれどね。単純に率いる兵力があがっているとかじゃあないはずなんだけれど、前田家の有用性のどの部分が上昇しているかをちゃんと把握した上で、その使い方を決めている節が伺えるので。
トシ君の功績というか能力というのは、武功のようなわかりやすい部分じゃないので、非常に把握しづらくてぶっちゃけ殿様こと前田利家もよくわかってないっぽいのだけれど(彼が偉いのはわからなくても、信頼して責任は負った上でかなり好きにやらせてるところなんだけれど。結果、デスマーチ&デスマーチ化してるとも言えますが)、信長についてはぶっちゃけ現場で目の前の仕事を捌くことに必死になってるトシ君よりも高い視点で彼のしていることを理解した上で、方向を指し示しているんですよねえ。

トシ君のやり口で実に面白いのが、相手が望むものを与えることでより大きな成果を得る手法である。これ、味方に対してだとWin−Winの結果になるのだけれど、えげつないのが敵に対してのもので、敵さんに目先の利益を与えることで、思う通りに動かした挙句に、気が付くと敵さん泥沼にハマって二進も三進も行かなくなっているのである。場合によっては、最後までイイように自由に操られた、ということに気が付かないで終わる場合すらあるのだから恐ろしい。傍から見ると、餌に釣られた間抜けに見えてしまうケースもあるんだろうけれど、実際その立場に立たされると、自分や自分サイドの勢力にとってプラスになり、敵対勢力にはマイナスになるだろう成果を、見逃すというのはありえないんですよね。これはまだ単行本化されてない先の話なんですけれど、恐ろしいことに差し出された餌を受け取ってしまうと詰みだと、釣られる側が完全に理解しながらそれでも餌に食いつかない以外の選択肢がない、という凄まじい展開すらある、というまあとんでもない手法なのである。
戦う前に既に結果は決まっている、という言葉はよく聞くけれど、ここまで見事に相手の動きを誘導して用意していた結果の穴に落としてみせる業師は、なかなか見られないんですよね。そりゃあ、わざわざ戦場に立つ必要がない。
甲賀への謀略なんかは、自分から足を運んでハメているのでまだ序の口の類なんですよね。筒井家への働きなんか、この人本当に兵糧をあっちからこっちへと動かすだけで、敵さん詰めちゃいましたしね。
いや、この兵糧を正確な数量、あっちからこっちへ動かす、というのが本来難しいを通り越してる難易度なんですけどね。ゲームなんかだと、数値打ち込んでそれで終いなんですけれど、現実ではそんな簡単な話じゃないわけです。ましてや、まともな管理の為の理論が成立していない中近世なら尚更に。
ラストの撤退戦「引き鳥府中」なんかは、この兵糧の出し入れの精確さと適確さ芸術的な差配が導き出したものですしねえ。彼の謀略は、個々の武将相手じゃなくて、一般兵や農民たちの群集心理、組織内のパワーゲームにおける人間心理を相手にしているというのも、面白いというかソソられるところである。対象を一人や個人に絞った謀略は、防ぎようというのはいくらでも方法はあるのだけれど、この心理誘導はほんとどうやって防いだらいいかわからないたぐいのやり口なんですよね。イニシアチブをどの段階まで繰り上げないと取り返せるかわからん。

ともあれ、普通の軍師モノ、戦記モノと比べて着眼点がかなり違っているので、その点だけでも本当に面白いし興味深い。しかし、こういう戦国モノって前田慶次郎は使い勝手愛嬌のあるイイキャラなんだろうなあ。特にこれは前田家が舞台の話だけあって、前田慶次が絡みやすいという下地はあったにしろ、ただでさえデスマーチで死にかけてる主人公にちょっかいかけて弄って遊んでくるキャラで、いつもくっついてくるんでぶっちゃけ、殿様の利家よりもでかい顔してますww