魔境戦区のナイチンゲール (角川スニーカー文庫)

【魔境戦区のナイチンゲール】 岬かつみ/はる雪 角川スニーカー文庫

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Kindle B☆W

“神”が医術を禁じた世界―“魔境大陸”。お尋ね者の人間カルマは、ある日、武器商人の少女サレナと出会う。サレナのキャラバンに同行するカルマだったが…。「胸も触診したいんだが」「ちょ、そこは…あっ…」実はカルマは、この世界で珍しい“医術師”だった!サレナの頼みで、“天の杯”が管理する“西の大監獄”を襲撃することになったカルマ。そこには、“戦闘執刀医”と呼ばれる異種族の少女たちが捕らわれていて!?
ナイチンゲールの名前を使うからには生半可な女傑じゃあ受け付けんよ、と若干構えて挑んだ本作ですけれど、なるほどメインヒロインのサレナはナイチンゲールの名字を持つに足るだけの気合の入ったお嬢さんでした。気高い理想を叶えるために、頭のなかがお花畑じゃあただの現実を見ていない迷惑な人種でしかありませんしね。その点、彼女は汚泥のような絶望から這い上がり、血と臓物に塗れながらそれでも理想を掲げ、戦って戦って勝ち取る覚悟を宿した女傑でありました。
カルマをはじめ、彼の仲間である医術師たちは、それぞれ医師としての誇りを以って体制に反逆するだけの闘士なのですけれど、いざとなるとそんな彼らをすら圧するほどのメンタル見せてたのはサレナでしたしね。恐るべきことに、その生き様に感化されたのはむしろカルマたちの方でしたし。幼少時の体験の壮絶さはみんな比べられないくらい凄まじいものなんですけれど、サレナのエピソードはその時の年齢も相まって畏怖すら感じる決断力ですし。
ここまで覚悟完了しているにも関わらず、普段は非常に繊細な乙女心の少女だというのはなかなか反則。ちょいと感性ズレているカルマの言動にいちいち振り回されて、赤面しているセレナの可愛いこと可愛いこと。
しかし、いざ武器商人のキャラバンの長として局面に立たされた時には、あの古き因習をブルドーザーのように踏み潰し、旧弊然とした体制をまっ平らの更地にし、常軌を逸したバイタリティで医療看護の分野に新たな地平を開拓していった偉人ナイチンゲールの如く、絶対的な神である医神が支配し、医術知識が制約され制限され恣意的に制御されているこの世界に、新たな医術の浸透した世界を打ち立てようとするそのカリスマは凄かった。キレイ事だけじゃなく、武器商人として戦場を行き来しているように清濁合わせ呑んで目的を達するためには汚名をかぶることを厭わない鮮烈さも備えていますし、実に気合の入ったヒロインでした。
世界観もなかなか面白いんですよね。医神が支配し医術が封じられた世界、というと一見医神の勢力が独裁を敷いている世界にも見えるんですけれど、空に浮かぶ黒い月に代表されるように変なところからニョロッとあの「神話」が顔を覗かせてくるわけですよ。何気に、いつの間にか「ソロモンの72の悪魔」VS「アレ」みたいな構図が浮き彫りになってくるわけで。
シリーズ化したら、面白くなりそうなんだけれど。