吸血鬼に彼女役を頼んだ結果→とんでもないことになりました (一迅社文庫)

【吸血鬼に彼女役を頼んだ結果→とんでもないことになりました】 すえばしけん/LENA[A-7] 一迅社文庫

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Kindle B☆W
異世界に続くゲートが開いたことにより、異種族と人間が共存する現代日本。何故かやたらと女性(人外限定)にモテる体質のため、トラブルに巻き込まれがちな俺・真城大河は、ひょんなことから、行き倒れていた密入界者で吸血鬼の美少女・リーゼロッテを助けることになる。彼女をかくまう代わりに、形だけの恋人になってもらうことで女難を避けようと、偽の彼女役をお願いすることにしたのだが、それがさらなるトラブルの引き金に―!?モンスター娘にモテモテ!?人外ハーレムラブコメ!
すえばしさんの作品としては【ひきこもりの彼女は神なのです。】寄りの世界観だなあ、これ。しかも、この作者特有のああこれはヤバイとゾクゾクさせられるような黒かったり壊れてたり、という部分が見受けられない久々のマイルド路線。かと言って味気なくなっているわけではないのは、さすがというべきか。ハーレムラブコメというには独特の渋みといいますか、キャラクターに味わいがあるんですよねえ。特にリーゼロッテと日和子さん。リーゼロッテは庶民的な生活の知識を殆ど経験していないまさにお姫様で態度も偉そう、という記号的になりそうなキャラクターにも関わらず、これが妙に面白いというかシットリとした雰囲気のあるキャラに仕上がってるんですよね。偉そうだけれど素直でクール。無愛想だけれど人付き合いが良く、世間知らずなのに世知に長けている。誤解されがちな大河という少年に対する深い理解者、それも大河当人が自覚していない部分まで短い付き合いの中でよく読み取り、彼の在りようを定義づけていたりもするんですよね。そういった点から見ても、彼女の性質が崇め持て囃されるお姫様というよりも……なるほど、彼女が異世界において与えられていた特殊な役割に相応しい在り方を培っていたのが何となくわかるなあ。観察し、把握し、価値を見抜き、在りようを捉え、その真贋を見極める。
必要に迫られて、緊急措置的にあの最後の選択をしたわけではなく、リーゼロッテはしっかりと選定を行っていたんですよね、これ。
さて、そんなお姫様にしっかりじっくり見られていたことに、この主人公の大河はどれだけ気づいていたのか。全然気づいていなさそうだな、うん。この大河って子、体質によるこれまでの不遇な人生の影響によるものなんだろうけれど、他人に自分がどう見られているか、という点について恐ろしく鈍感なんですよね。まあ自分の出すフェロモンによって、正気を逸しかけてる人外によるトラブルに遭い続けた、というのは相手から向けられる意思や感情が常に変な状態であり、普通の人間もちゃんと彼の人となりや言動を見てくれずに一方的な思い込みから来る決め付けで判断され続けたのだから、むしろ他者からどう思われているか、については鈍感にならないとやっていけなかったのかもしれないけれど。
ただ彼の偉いところは、他者から何も与えられず理不尽に見まわれ続けながらも、自分からは礼節を喪わず信義を重んじ、他者が見舞われる理不尽に正しい怒りを示す人品を保ち続けたところなのでしょう。これだけ心を叩かれ続けながら、歪むことがなかったというのは果たしてどれほど強靱だったのか。
いや、冗談抜きでリーゼロッテの見る目というのは、まさに選定の側に立つに相応しかったんじゃないでしょうか。惜しむらくは、主人公の大河が鈍感故に基本一方通行であることとリーゼロッテが物語の核心としては能動的でありながら、内面の問題に関しては基本観察者モードで積極的に相手に干渉してくるタイプ、或いは時期ではなかったせいか、肝心の主人公とメインヒロインの関係の醸成がひどく大人しかった、というところでしょうか。いや、あんまりバンバンぶつかり合うことも干渉しあうこともなく、静々と熟成されて行ってたんですよね。わりと物語の進行が捲いてるのか早かったんで、微妙に二人の関係の修熟のスピードと合ってなかった気が……。これが長期シリーズでゆっくり進行していくなら、この二人の関係のスピードもちょうどよい丁寧さなんですけれど。
あと、面白かったのが日和子さん。大河のTシャツの匂いかいでハアハアしてる変態さん、と定義付けてしまうと可哀想か。でも、この人の立ち位置もヒロインとしてあるまじき苦労人的なポディションで。主人公たちが関知しないところでひたすら公務員としての立場と大河たちの隣人としての情に挟まれて、あたふたと苦悩しストレス溜め続けるという、一人で何をしてるんだろう、と思わず涙誘われる人だったんですよね。この人、ヒロイン枠にちゃんと入ってるんだろうか(苦笑
いやでも、一番感情移入してしまうのがこのいい人すぎる日和子さんだったわけで。もう少し良い目見させてあげてください。

すえばしけん作品感想