双剣使いの封呪結界 (一迅社文庫)

【双剣使いの封呪結界(ロストマギカ)】 瀬尾つかさ/ 美弥月いつか 一迅社文庫

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若者たちが異世界に勇者として召喚されては、ちからを手に入れたまま帰還することが頻発するようになった地球。あるとき、東京は謎の黒い霧に覆われ異世界とつながり、強大な怪物たちが現れるようになり東京は閉鎖された。高い戦闘力を保持した異世界帰還者たちは、霧を発生させている謎の黒い柱を破壊することで霧から東京を解放できることを発見するが、黒い柱の数は膨大で……。帰還者たちの中でも最強と呼ばれる一輝と遙、特殊な魔術を行使する理沙の三人組は、激しい戦いの中、黒い霧の奧に潜む途方もない何かの存在に巻き込まれていく……。スカイワールド、銀閃シリーズを完結させた瀬尾つかさが挑むバトルファンタジーの新境地!
相変わらずどこでも出てくるな、このマッド小人族。黒い霧が無数の異世界を侵食していく、という危機的状況だけれど、侵食具合なら作品の枠を超えてどこにでも登場するこの自爆系小人族の方がよっぽど侵食してますよね!?
多数の次元世界を滅ぼした勢力が、現代地球にも侵略の手を及ぼしてくる、というのは瀬尾さんの得意のツールなんだけれど、本作は最初期に東京の中枢部がやられてしまっているために、優秀かつ指導力を持った層が根こそぎいなくなっているので大人側の指揮系統が完全に劣化してるんですよね。割りと他の作品では後方支援組織やバックアップ体制は中身が真っ黒であろうとかなり頼りがいはあったんですよね。人類の存亡を賭けた総力戦、に相応しい体制だったのですが、こっちはバックアップがしっかりしているどころか、足を引っ張られている状況なので前線戦力となる帰還者たちは精神的にも肉体的にも疲弊する一方。かなりストレスの溜まる状況なんですなあ。
そんな中で世界を救うよりも個人的な事情を優先して動いているのが、主人公となる一輝と遙。政府の紐付から離れて独自に動いているのですが、この子たちも目的に向かってひたすら脇目もふらずに邁進していたが為に、気付かずかなりメンタルがヘタって先鋭化していたようなんですよね。
そんな中で、召喚された異世界で仲間たちをすべて殺されて自身もその世界の侵略者のボス相手に潰えようとしていたところを一輝たちに助けられた理沙。彼女の参入と地球への帰還が、思えばすべての変化の起点になってるんですよね。彼女自身、共に召喚されて辛い戦いをくぐり抜けてきた仲間たちを失い、大きな心の傷を負っているにも関わらず、微妙に三下っぽい、しかし意図された陽気さと前向きさによって、徐々に一輝たちの凝り固まったメンタルを解きほぐして、彼らを人間に戻していくんですね。また、帰還者たちのリーダーとしてこの世界の盾となり、無能なバックとの調整や一輝たちに便宜を図るなど組織運営や防衛戦略についてもほぼ一人で奮闘していた小学生戦士かなたの孤高にして孤独な心を本当の意味で救い支えようとしているのも彼女、理沙ですし……もうこれ、理沙が主人公でいいんじゃないだろうかw
理沙は決して強い子じゃないんですよね。戻った学校ではうまく馴染めず、失敗を繰り返してはへこんで落ち込んでいるし。それでも、この娘だけはひたすら目的に向かって邁進する、突き進まなければもう二度と進めないくらいにボロボロになっている帰還者たちの中で、周りの人たちを支えようとしている。かつて、自分が居世界で仲間たちに支えられ助けられ、最期まで守られたことを。彼女の能力が、誰かに守られることを前提としているからこそ、当たり前のように自分を費やして周りの人たちを身も心も守ろうとしている。それこそ、自分を使い尽くすのを望んでいるように。その意味では、彼女もまたいい具合に壊れているんだけれど、その壊れ方が他人を癒やすことに費やされているのは、何とも健気だなあ、と遠い目になってしまう。これに関しては、かなたも似たようなものなんですけどね。かつて喪われた仲間たちが自分に託したものを、目いっぱいに背負い込んで、世界を守るために全力全壊で使い尽くそうとしている。小学生の幼女が背負うには、あまりにも酷じゃあないですか。でも、優秀すぎるが故にみんな、彼女自身も含めて彼女を決して歳相応の小学生の子供としては扱わない。それを、理沙がするりと滑り込んで誰もやらなかったことをやっているわけですけれど……。
いずれにしても、惨い世界観だなあ。ただでさええげつない状況下で、さらに悪意を持った謀略が帰還者たちを陥れ、屠ろうと手を伸ばしてくる。さて、いったいどの段階で痛快にこの行き場のないどん詰まりのような状況をふっ飛ばしてくれる展開になってくれるのか。

瀬尾つかさ作品感想