レオ・アッティール伝 (1) 首なし公の肖像 (電撃文庫)

【レオ・アッティール伝 首なし公の肖像 1】 杉原智則/岡谷 電撃文庫

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西のアリオン王国、東の聖ディティアーヌ連盟と二つの列強に挟まれたアトール公国。その公子レオ・アッティールはアリオンへ人質同然で送り出され、辺境の太守のもとで武芸と学問に励んでいた。そして時代は転換点を迎える。アトールと接する中立勢力・コンスコン寺院とアリオンの関係が悪化したのだ。アトールからの援軍パーシー、コンスコンの僧兵カミュ、僻地から来た傭兵クオンは協力して迫りくるアリオンの軍勢に対抗しようとする。その戦いの最中、三人とレオは運命の出会いを果たす―。若き主従が戦乱の世を駆け抜ける本格戦記ファンタジー、開幕!
ああ! これって作者が電撃文庫で手がけていた本格戦記【烙印の紋章】と同じ世界観の話だったのか。舞台となるアリオン王国というのは、烙印の紋章のラストに東から襲来してきた大国でしたしね。となると、冒頭で語り部が首なし公レオ・アッティールの伝記を語りかける皇帝と皇后ってもしかして、あの二人、なんでしょうか。この世界観において、皇帝と呼ばれる人物が国主となっているって、メフィウス帝朝だけですしね。それに思い至っただけで、ちょっとワクワクしてきてしまいました。特に本筋に関わる部分ではないのですが、なかなかに想像の翼を羽ばたかせてくれる掴みの部分でありました。
さて、本編はのちに英傑として名を馳せるレオ・アッティールが未だ歴史の表舞台に立つ前の、うだつのあがらない無力な人質でしかなかった時代からはじまります。かの人物が如何にして戦乱の渦中に立つのか。そして、一体何を成し遂げて勇名を、或いは悪名を轟かせ、そして歴史の闇に消えていったのか。どうにも、冒頭の語りを聞いていると、一体彼が何をやってのけて、そしてどんな結末を迎えたのかが想像の余地がありすぎるんですよね。レオ・アッティールの伝を残していたという名前が出てきたクロードやパーシーといった人物も、彼らの未来での立ち位置と現在でのレオとの関わり方を見ると、あれ? と首を傾げるような断裂がありますし。最初に種を撒き、それがまずは事が起こる前の序章というべきこの一巻を読み進めるうちに芽吹いて、この後の展開がどうなっていくのかの想像を羽ばたかせる材料となる。決して派手なストーリーじゃなく、それどころか人物も展開も渋めのものにも関わらず、ワクワクさせてくれる要素が上手いこと散りばめられているのが、さすがファンタジー戦記のベテランといったところでしょうか。
この作者の描く主人公の特徴として、絶対的な孤独、というものがあるのですけれど、本作のレオも彼を慕う少女や彼に傾倒していく仲間たち、という存在はありながらも、その心の中は他者とどこか隔たりを抱いていてその歩む道に孤独を付きまとわせているんですよね。レオが人質として預かられていた将軍家の末娘で、兄妹同然に育ってきたフロリーが、ヒロインだと思うんですけれど、うむむ、彼女が果たしてメインヒロイン足り続けることが出来るのか、少々不安でもあるんですよね。この娘、良くも悪くも善良で純真な乙女に過ぎず、レオのような人間の心の闇に踏み込んでいけるような強さがある娘なのか……。自分の痛みや辛さを我慢し耐えて、恋い慕う相手のために献身できる健気な強さを持つ娘だとは思うんですけれどね。レオにとっても、フロリーは大切な妹であり自身にとって重要な位置づけにある人物のはずなんですけれど、あのラストでの扱いを見ると、フロリーを愛し大事に扱うのと彼女の気持ちを考慮せず蔑ろにすることを、駒として利用することを平然と並列でやってしまいそうな所があるんですよねえ、この主人公。

と、最終盤でようやく主人公らしい出番を獲得するレオですけれど、実際の所この一巻で主だった部分を担っているのは、アリオン王国とコンスコン寺院の間で起こった小規模の紛争に参加しているパーシー・リィガンであり、彼がこの戦場で知り合い戦友としてともに戦い、運命を交錯させることになった僧兵の兄妹と傭兵の少年の四人なんですよね。相変わらずというか、烙印の紋章と同じ世界観なだけあって、出てくる人物は能力的にも人格的にも微妙な人たちばかりなのが、思わず微苦笑してしまう懐かしさでありまして。わかりやすく超優秀、というような戦記モノには必ずたくさん出てくるようなキャラがほとんど出てこないんですよね。でも、それがむしろ折々のキャラの判断や行動の是非、それがもたらす結果にヒリヒリとした危うさや生々しい息遣いを感じさせてくれるわけです。だからこそ、地味っぽい、派手さがない、キャラクターの華に欠ける、という部分もあるのかもしれませんけれど、杉原さんの作品だとむしろこれが味なんだよなあ。

ともあれ、本格的な動乱が訪れるのはまさにここから。レオ・アッティールがここから何を為していくのか、その残された数々の異名悪名に対して、その足跡はまだ何一つ明らかにされていないだけに、期待は高まるばかりです。

杉原智則作品感想