宇宙人の村へようこそ 四之村農業高校探偵部は見た! (電撃文庫)

【宇宙人の村へようこそ 四之村農業高校探偵部は見た!】 松屋大好/霜月えいと 電撃文庫

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四之村を知っている人は少ない。ネットで検索をしても、まずヒットしない。まるで意図的に隠ぺいされているように。ぼくが母の都合でこの村に引っ越してきて、初めてその理由がわかった気がする。あまりにも独特なのだ。現代科学から百年は進んでいる数学理論が、高校の中間テストに出るのだから。探偵部の部長ハコさんは言う。この村の人間は宇宙人なのよ、と。この美人な先輩が言うことが、あながち笑えないと気づいたときにはすでに遅い。ぼくはいやおうなくこの村のすごさを思い知るのだった。超古代ミステリからオカルトまで、なんでもござれの村へようこそ!
なんじゃこりゃあ(笑
ものすごく胡散臭いトンデモ科学や非常識がまかり通り、自分たちを宇宙人の子孫と事情して独自の社会システムを構築し、古代文明からオカルトに纏わる話が当たり前のように日常の中に組み込まれている現代の隠れ里「四之村」。川口浩探検隊が毎週探検してもネタが尽きないような村である。これが、トンデモなネタの数々を笑ったり、胡散臭さを茶化すような内容ならベタなコメディ作品に落ち着いていたんだろうけれど、本作の恐るべきはこれらのスットコどっこいなネタの数々がこの村では真面目に実在していて、その存在に疑いを抱く余地がない、というところである。東京育ちで外部から引っ越してきた主人公神室圭治は、これらの雑誌「ムー」に掲載されているようなネタの数々から巻き起こる事件に、自分の持つ常識がガラガラと崩れていくのをわりとアッサリ受け入れて、目の前の非常識な現実に取りも直さず探偵部の一員として挑んでいく。
なるほど、ヤラセでもでっち上げでもない本物のトンデモのごった煮に真剣にシリアスで取り組んでしまうと、こういう頓狂な内容になってしまうのか。
言うなれば、ヤラセ抜きのガチ「川口浩探検隊」である。あかん、面白い(笑
いやもう、全部胡散臭いにも関わらず、みんな真剣なんですよね。そして、実際に胡散臭いけれど全部真実で事実で現実であったりする。だから、読んでいるこっちも真剣に、本気で圭治たちが陥るピンチにハラハラして、彼らが迫るミステリーに手に汗握り、想像を絶する超理論の実在に歓声をあげなければならないのだ。
「川口浩探検隊」とは、そうして楽しむエンターテイメントであったり、易しいことに本作はヤラセ抜きを実演してくれているので、こんなん作り物だろう、と心に冷めた棚を作るような無駄なリソースを割かずに済む仕様になっている。さあ、存分にオカルトミステリーを、超古代文明の残した謎を、怪生物の襲来を楽しむが良い!! ここは、それらを余すことなくなんでも節操ないくらいに取り揃えて提供してくれる、万国博覧会場だ。

 ……もうちょっと自重しような、宇宙人村w

それにしても、この真面目に頓狂な雰囲気は素晴らしいですわ。クローズドサークル的な山奥の村という舞台設定は、田舎の長閑な日常モノとしての要素も併存して取り込んでいますし。なに、この村の「農業推し」はw
あと、普通に殺人事件が多すぎる。なんか、話を聞く限り相当の頻度で殺人事件やそれに類する事件が起こっているようですし。でも、殺人事件程度じゃあ村に非常の雰囲気は漂わないんですよね。思いっきり、日常風景の中に組み込まれてしまっている。怖いよ、この村。あまりにアッサリと道端で怪死してるんで、あとで普通に生き返るのかしらと疑ってしまったくらいだし。普通に死んだままでしたけど。だから怖いよ!

社会システム的にも、人間の生態的にももはや地球上というよりも、異星の上のような常識という平衡感覚が完全に斜めに歪んてしまったような環境にも関わらず、この東京出身の主人公は意外と適応能力が高いのか、それとも早々に洗脳されてしまったのか、せいぜい都会と田舎の違い程度でこのギャップを受け入れてしまっているのが、こいつもややオカしいよね、と首肯させてくれる。
普通は、もっと精神的に摩耗して精神の均衡の方を崩してしまいそうなのだけれど、ずっと普通のままなのが逆にアレな感じなんですよね。
母親が村の名士の家柄なせいか、外部からの移入者にも関わらず結構尊重される立場にある、というのもあるんでしょうけれど、わりと女性受けがいい主人公ですけれど、概ねここの村人は人類の範疇から逸脱しているので、さほど羨ましくはないな、うん。
登場時はぶっ飛んだ人に見えた探偵部部長のハコさんが後半に行くに連れて、この人すごくマトモな部類なんじゃないだろうか、と思えてくるくらいだし。
なんにせよ、この独特な作風は他に類を見ないエッセンスに溢れているので、まだまだ続きを堪能したいなあ。怪作である。