天牢都市〈セフィロト〉 (MF文庫J)

【天牢都市〈セフィロト〉】 秋月煌介/ぴょん吉 MF文庫J

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「世界は概ねクソったれであると理解している」
十の浮遊する都市、セフィラが人々にとっての世界の全てだった。かつて親友のリアと共に自作飛行機の事故で空から落ちた少年、カイル。彼は下層セフィラ、イェソドにある酒場の用心棒として生計を立てていた。そんな彼の前に、空から一人の少女、ヴィータが落ちてくる。世界の本質に干渉しその在り方を《再定戯》する力“定戯式"を駆使して少女を救ったその時、彼の日常は一変する! 第11回MF文庫Jライトノベル新人賞佳作受賞作、世界を賭して空を翔けるボーイミーツガール、堂々開幕!
「カイはなにをしたい? なにを手に入れるために飛ぶ?」
自らが犯した罪、それによって大切な人を傷つけてしまった後悔、何よりその人の夢を壊してしまったことへの罪悪感。それらと向き合うことが出来ずに生きたまま停滞してしまっていたのが、この作品の主人公のカイルである。挫折から立ち直れず、かつて輝くように胸に抱いていた夢や理想、希望といったものを燻らせてしまっている彼は、言わば見るに耐えない敗残者である。が、見方を変えるなら、彼…カイルの折れた心の底で燻っている炎は、未だに消えることなく火を残していたんでしょうね。それは浅ましい未練なのかもしれませんが、捨てられないそれを抱え込んでいたからこそ、彼は今のような有様に成り果てながらも、周りの人たちから見捨てられなかったのでしょう。見捨てないだけで、見守るだけでお節介に手を差し伸べず、自分で立ち上がるのを待っていてくれるあたり、なかなかに厳しい気もしますけれど。特にリア、カイルが挫折する要因になった彼女なんぞ、徹底してカイルに対して自分で考え自分で向き合い、自分で答えを得て自分で立ち上がれ、とばかりに手を差し伸ばさなかったくせに、いつまでもいつまでも諦めず見捨てずに、カイルがいつでも夢を取り戻していいように準備万端整えて待ち続けていたんだから、大した幼馴染ですし、これだけ途方も無い信頼を寄せ続けていてくれた、というのは男としては恐れおののくところではあるんですよねえ。果たして、それだけの信頼に応えることが出来るのか。それが出来るようになったからこそ、挫折を乗り越えリアの前に立つことが出来た、とも言えるんだけれど。
でも結局カイルと、もう一人の対をなす「彼」にここまで決定的な差が出てしまったのは、その大切な人を喪ったかそうでなかったか、の僅かな違いだったんだろうなあ、とも思うのです。あの人は、挫折や後悔が向かう先が自分だけでは収まりきらず、憎しみや絶望にまで到達してしまったがゆえの、破滅だったのでしょう。もし、彼女が生きてさえいてくれたら、果たして「彼」もまたカイルと同じようにもう一度夢を輝かせることが出来たのでしょうか。
一度取りこぼしてしまった「キラキラ」したものを、皆一人ひとりがもう一度、自分以外の誰かと一緒に取り戻していく、これはそんなお話で、燻っていた火がもう一度炎となり、輝くように燃え盛る姿はみんな眩しいばかりで、そんな初々しいまでの真っ直ぐな「夢」へと進める若者たちが存分に描かれた、実に清々しい、若々しいお話でした。
なかなかね、空々しさを感じさせず本当にキラキラしたものを描いてみせるのは難しいものだから、尚更それを感じさせてくれた本作は感慨深かったです。