転生従者の悪政改革録 (角川スニーカー文庫)

【転生従者の悪政改革録(ブラッククロニクル)】 語部マサユキ/ 遠坂あさぎ 角川スニーカー文庫

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大好きな七海先輩との下校中、異世界転生してしまった勇利。没落貴族の跡取りとして、仕えるワガママ令嬢に会いに行くと―「申し訳ありませんでした!」と華麗な土下座をキメられた。普段と様子の違う令嬢に戸惑う勇利は、ふとした仕草から彼女が同じく転生した七海先輩だと気づく。元の世界に戻るには令嬢(=先輩)が婚約or悪徳貴族がはびこる王宮での成り上がり!?先輩の婚約回避のため、悪役令嬢とはじめる異世界改革!!
おおっ、これは面白いなあ! 一人で異世界に転生してしまうのではなく、好きな先輩と一緒に転生しちゃうのか。でもこれって、転生じゃなくて厳密に言うと憑依になるんじゃないだろうか。肝心の悪役令嬢とその執事の中身も、現代の七海と勇利の中に入っちゃっているわけで、入れ替わっちゃってるわけですから。
ともあれ、この二人で、というのがポイントでお互い気心の知れた先輩後輩同士、息のあったコンビネーションでこれまでの公爵令嬢の悪評をガンガンひっくり返していくパワフルさは、見ていて痛快。うん、パワフルなんですよね。二人共現役水泳部、それも先輩の方はインターハイでもトップを狙える位置でオリンピックにも足をかけようか、という高いレベルのアスリートなだけに……基本体育会系。さっぱり姉御肌の体育会系悪役令嬢の誕生であるw
面白いのが主人公の勇利の方で、選手としては実力不足ながらその観察眼と分析力によるコーチングの才能には図抜けたものがあり、当人よくわかってないようだけれど、選手間での評判は上々、顧問の先生もわざわざ出場選手じゃない彼を大会まで引っ張っていくあたり、彼の才能は周知のものなんでしょうね。彼にアドバイスを貰えば、それだけでタイムがぐんぐん上昇する、という折り紙つきの指導力の持ち主なのであります。
でもこれって、軍師や策謀家というタイプじゃないんで別段悪辣な作戦や緻密な戦略を立てて計画的に目的を達成していく、という感じじゃあないんですよね。彼が一番得意とするのは、やはりコーチング。自分の才能や特徴をちゃんとわかっていない人たちに確実な方向性を授け、細かい修正を行い、効率的で着実な練習メニューを構築し、一流のアスリートへと仕上げていく手腕こそが、彼の得意技なんですね。試合における勝利への道筋を組み立てているのを見ると、コーチングだけではなく監督としても行けそうですけれど。
結果として、魔法の力も練習に活用して、モンスターアスリートを量産していく怪物執事と、その気風の良さとリーダーシップ、太陽のようなカリスマ性で執事が鍛え上げたみなをまとめ上げ、旧弊然とした階級社会にガンガン風穴を開けていくパワフル令嬢。
二人共、お互いに一番信頼できて一番傍に居て欲しい相手がちゃんと居てくれるお陰か、憂いも何もなくとにかく陽性の明るい雰囲気で、澱を吹き飛ばしていく話で、いやあスカッとしましたわ。
しかし、この二人の場合、ニブチンなのは主人公ではなくヒロインの先輩の方なのね。勇利の方があれだけ好き好き光線出しているのに。先輩の方だって、勇利への全幅の信頼の置き方とか心の拠り所にしてるみたいな反応といい、完全に好きっぽいんだけれど。
どうやら、この二人の恋愛模様に関しては、現代の方に飛ばされた異世界の二人の動きがジョーカーとなって作用してくる風向きも感じられるので、何気にそっちの方も要注目なんですよね。
なんにせよ、これは面白いシリーズはじまりました。