横浜ダンジョン (2) 英雄姉妹の挑戦 (角川スニーカー文庫)

【横浜ダンジョン 2.英雄姉妹の挑戦】 瀬尾つかさ/やむ茶 角川スニーカー文庫

Amazon
Kindle B☆W
世界各地にダンジョンが出現した世界―。前世で白き賢者と呼ばれた少年・黒鉄響は、無詠唱で魔法を使える特殊な力を持ちながらも、それを隠して日々を過ごしていた。クラスメイトの真藤春菜とその相棒である坂霧彩に戦い方を教えながら、夏休みもダンジョン攻略を進める響。そんなある日、大剣使いのクレアと魔術師シンシアの姉妹に突然春菜が決闘を申し込まれて―。戻らない探索部隊、そして姉妹に課せられた重き使命とは!?
危機感、というのは得てして共有されにくいもので、こればっかりは仕方ないんだよなあ。現状、ダンジョンの奥に潜む脅威について知識・情報として持っているか否か、から危機感は変わってくるし、たとえ知っていてもその脅威を「実感」として得ているか、正しく理解出来ているか、によっても差は出てくる。ぶっちゃけ、響が感じている危機感、切迫感をこの現代の地球で共有できるのはそれこそ、その脅威を目の当たりにした春菜の姉たちだけであり、そして彼女はその脅威に抗うためにダンジョンの奥に姿を消してしまったわけで、わりと響って現状行き詰まりがあったと思うんですよね。色々と、星繰り人強化の為に手は打っていたものの、かなり地道な活動で影響力としてはそこまで劇的に及ぼせたかどうか。
先進国間の星繰り人のレベルの上昇が停滞していたのも無理からぬ話で、「敵」の存在がちゃんと把握されていない現状では、先進国が星繰り人の「安全」を重視するのは当然の話で、なりふり構わぬやり方をした結果犠牲が大量に出てしまうと、世論としてなんで安全性を無視してそんな無茶をやらせるのか、許すのか、という論調が出てきてまあ当然だし、当の星繰り人たちも「無茶」をする理由も今はないわけですよ。
その意味では、数々の世界滅亡の脅威を描いてきた瀬尾さんの作品の中でも、本作はトップクラスに危なっかしい世界観なのかもしれない。何しろ、敵の勢力とまともにやりあえる戦力が現状殆ど皆無に等しいわけですし、その戦力を生み出すのに必要な危機感が、世界の中で全く共有されていないわけですから。
だからこそ、夢見で正しい知識と実感として敵の脅威に対する危機感を得ている上に、うん初動が遅かろう日本政府ではなく、英国中枢に多大な影響力を及ぼす力を持っているシンシアの登場は、非常に大事なものなんですよね。星繰り人として超一流、というのはこの際添え物なのかもしれない。彼女の重要性とは、世界に対する影響力そのもの、と言って良いのでしょう。その彼女が、この危機を打開する鍵こそが、黒鉄響という少年である、というのを正確に捉えている。鍵である響に対して、シンシアこそが扉、とすら言えるかもしれない。
この扉を台無しにしようとしたわけですから、政府はヘタを打ったもんですわ。事情を鑑みると、クレアの横槍のせいとも取れるので、一概に政府攻めるわけにもいかんのでしょうけれど、おかげで「ザ・ブラック」が誕生してしまい、響の繊細な心に消えないダメージが刻まれてしまったじゃないですか、どうするんだ。仮にも白の賢者と呼ばれたホワイトイメージが、黒くなっちゃうのは如何なものかw
でも、こっちでの名前も黒鉄なんですよね。何気に、シンシアがラストに見た新たな夢見も絡んで、この白と黒の相克は何らかの意味がコメられてるんだろうか。

しかし、これだけ正直に自身の持つ秘密をあけっぴろげに公言しているのに、まるで信じてもらえない主人公、というのも苦笑してしまう。本人、別に信じてもらうつもりもなくて、持ちネタみたいに使っちゃってるけれど、そりゃあ出処不明の革新的すぎる知識や怪しげなネタを全部、前世の記憶です、と言っても信じてもらえないか。

1巻感想