りゅうおうのおしごと! (GA文庫)

【りゅうおうのおしごと!】 白鳥士郎/しらび GA文庫

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玄関を開けると、JSがいた――
「やくそくどおり、弟子にしてもらいにきました! 」
16歳にして将棋界の最強タイトル保持者『竜王』となった九頭竜八一の自宅に
押しかけてきたのは、小学三年生の雛鶴あい。きゅうさい。
「え? ……弟子? え?」
「……おぼえてません?」
憶えてなかったが始まってしまったJSとの同居生活。ストレートなあいの情熱に、
八一も失いかけていた熱いモノを取り戻していく――

『のうりん』の白鳥士郎最新作! 監修に関西若手棋士ユニット『西遊棋』を迎え
最強の布陣で贈るガチ将棋押しかけ内弟子コメディ、今世紀最強の熱さでこれより対局開始!!
9歳ではじめるのが遅い、と言われてしまう将棋界。世の中、現実世界上において様々な想像を絶するプロフェッショナルな世界があるものだけれど、この棋界というやつだけはちょっと頭一つ図抜けている。話に聞くだけでも人外魔境である。ハッキリ言って同じ人間、人類なのか? というエピソードがゴロゴロと転がっている。文字通り、人間を辞めた人だけが成れるリアル修羅道、てな具合なのである。
将棋将棋、朝起きて夜眠るまで二十四時間三百六十五日、すべて将棋で埋め尽くされる人生。将棋のことだけ考えて、エネルギーを燃焼させ、脳髄をフル回転させ、棋譜の沼へと沈んでいく。それを当然とし、それを
至上とし、それを楽園と捉え、七転八倒しながら悶え苦しみ続けるを法悦とするよう己を改造し尽くした、文字通りの修羅たちの世界。
これは、そこで生きるを自ら望み、自ら選び、自らの手で勝ち取ろうとする若者たちの物語である。故に、熱い。生活のすべてに将棋があり、人生の前提に将棋があるゆえに、その将棋に情熱を、執念を、魂を捧げ燃やし尽くしている彼らの日常は、だからこそ一分一秒に至るまで炎のように燃え盛っている。
だから、これは端から端まで火傷してしまいそうなほど、地獄の熱さに炙られている。その熱の質は、決して清々しいものではない。どこか、妄執じみていて狂奔に暮れていて、肉を焦がし骨を崩すようなじっとりとした粘り気のある炎なのだ。
それが、この業界で戦い続けることへの、苛酷さ、凄絶さ、凄味を肌で感じさせてくれる。
年齢など関係ない、高校生だろうと中学生だろうと小学生だろうと、子供扱いしてくれない、戦うものへの敬意と殺意に満ちている。
同時に、同じ将棋という魔境で戦う物同士、棋士同士の間で紡がれる人間関係は濃密で柔らかいんですよね。彼らは対戦相手であると同時に、同じ将棋という沼の底を探りあう同志でもあるわけです。向かい合い将棋を指し合うというのは、自分の奥底を掘り出しえぐり出して導き出したものを曝け出し合い交え合う、という対話を繰り返すということでもあり、勝敗を奪い合う関係であると同時に、戦友でもある。同門の兄弟弟子なら尚更に、毎日何回も何回も指しあって来たわけで……それこそ幼少の頃からそれを続けてきた八一と銀子の二人の間に流れる時間の濃密さ、というのはどれほど尋常ならざるものか。
でも、だからと言って気持ちが通じ合う、というわけでもないのが不可思議であり、人間の底のない複雑怪奇さの証左であるのかもしれない。

わずか一六歳にして、将棋界の頂点の一つである竜王のタイトルを取ってしまった九頭竜八一。しかし、竜王座の重圧は、彼にスランプに引き込み、彼は将棋に対する情熱……いや、将棋という魔に身も心も染め尽くすための執念の熱量を見失ってしまっていた、そんな時に純粋に将棋の深淵に一心不乱に飛び込もうとしている小学生の少女と出会うことで、見失っていたものを取り戻していくのである。
しかし、わずか16歳にして人生の曲がり角を体験し、また9歳にして人生の行く先を自ら必死に齧りついて、他の可能性をかなぐり捨てるようにたぐり寄せる姿は、やはり凄絶ですらある。その歳で、そこまでの決断を強いられるのか、と。そこまで、自分自身全部を賭けなければならないのか、と。
そうしなきゃ、居てもたってもいられなくなるほどの、魅入る魔性が、将棋というものにはあるのか、と。ゾクゾク、震えが来るんですよね。
その辺の狂熱を、さすがは白鳥さん、実に魅力的に描いているわけですよ。魅入られる。
一方で、深遠に落ちるを孤独ではなく、兄弟弟子のそれやライバル同士の高め合い、そして何より師弟関係という、導きあい導かれあい、高め合う、可能性に手を差し伸べる温かさも、しっかり描いてるんですよね。
他者の際限のない才能を目の当たりにしたとき、善意や親切ではなく、ただ自らのうちから湧き上がる衝動として、その才能が芽吹く瞬間を目にしたい、その可能性を花咲かせたい、自らの手で導き高みへと押しあげたい、という欲求。自分の手で育てる、という快感。こうして、道というのは先へ先へと繋がっていくもんなんだなあ。
うん、いい具合に濃いキャラばかりで相変わらずというべきかもしれませんけれど、期待したとおりに面白かったです。

白鳥士郎作品感想