ロクでなし魔術講師と禁忌教典 (5) (ファンタジア文庫)

【ロクでなし魔術講師と禁忌教典(アカシックレコード) 5】 羊太郎/ 三嶋くろね 富士見ファンタジア文庫

Amazon
Kindle B☆W

「先生と私は、将来を誓い合った恋人同士だから」学修旅行後、アルザーノ魔術学院に招かれた特別講師レオス=クライトス。彼から婚約者として突然の求婚を受けたシスティーナは、グレンを言い訳に断ろうとするのだが…。「お前とくっつけば、俺、もう働かなくていいじゃんッ!」グレンは夢の無職引きこもり生活ゲットのため『逆玉』を本気で狙うロクでもない行動に出始め―。システィーナを賭けて、レオスと担当クラス同士の魔導兵団戦で決闘をすることに。決闘の裏に潜む最凶の『正義』、そして魔導士を辞めることになった過去の事件と向き合う時、グレンの下す決断とは…。
うん、わかる。グレンの過去がどうだろうと、彼が本当はどんな人間だろうと、全部受け止め受け入れる覚悟を持っているルミアと比べて、システィーナはあまりにも覚悟据わってないんですよね。ルミア自身、その人生は常に非常の只中にあり、陽の光の下に曝け出せない後ろ暗い部分を抱え持っているだけに、いつ如何なる時も覚悟を決めて生きているし、その中で何が大切なのか、何を守らなければならないのか、というのを決して見失わない強さを備えている。それに対して、システィーナはあまりにも弱い。危急の時、自分がこれだ、と思ったことを貫けないし、こうしなきゃと思ったことさえすぐに揺らいで取りこぼしてしまう。普段の気の強さ、背筋をまっすぐ伸ばしたような正道を歩む姿とは裏腹に、命の危機に見舞われた時や人の悪意を目の当たりにした時、この世の闇の部分を覗いてしまった時、彼女は脆く崩れてしまう。怯え、怖がり、自分を保つ芯を持てない臆病者。好きな人を信じきることすら出来ない弱虫だ。
でもね、私はそんな彼女が、システィーナが愛おしい。誰よりも、自分の弱さに打ちのめされ、失望しているのが彼女だから。ルミアに対して敗北感を痛感し劣等感を感じているのが、彼女だから。
みっともないし、無様だし、情けない有様を晒しまくっているけれど、自分に絶望しかねないレベルでこれまで積み上げてきたものをボロボロと取りこぼし、剥がれ落としてしまった彼女だけれど、でも本当に最後の最後で、一番見失ってはいけないものだけは、諦めてしまってはいけないものだけは、死守してみせたから。
この娘は、とても弱くて臆病なこの娘は、それでもなけなしの勇気を振り絞ることが出来たのだ。弱い彼女だからこそ、恐ろしいもの怖いもの悍ましいものを受け入れられない、受け止められない弱いシスティーナだからこそ、言えるワガママがあったのだから。
諦められず、捨てられず、無様を晒してしがみついて守り通した、好きという気持ち。そして、怖いグレンを受け入れられない弱さが、振り絞った勇気によって振るわれて、きっとグレンを引き戻したのではないだろうか。
ルミアやリィエルならどうだっただろう。ここまで必死になって、グレンの回帰を止めることが出来ただろうか。パーフェクトヒロインの貫禄すらある、ルミアの愛の深さ器の大きさを考えると、たとえグレンが昔に戻っても、彼が抱える苦悩ごとまるっと包み込んでしまいそうな懐の深さがあるんですよね。ルミアのポテンシャルだと、グレンがどうなっても、その心の傷ごと癒やして救ってくれそうな趣きすら感じられるのです。でも、その大きさはグレンのこの時の非情の決意を引き止める役割を担えただろうか、とふと考えてしまうのです。
グレンは、先生のままで居られたかな、と。
それに、あの時、あの瞬間、グレンが過去と直面させられた時、その場に居たのはシスティーナだけだった。彼女しか居なかったのである。だから、彼女は頑張ったし、彼女にしか出来ないことをやってのけた。
無様でもみっともなくても、ちゃんと、システィーナはメインヒロインの看板、立てて居られていますよ。
勇気を持って、奮い立っているじゃないですか。

グレンにとっても、この娘はほんと可愛いんだろうなあ。でも、この一件はグレンにとってもシスティーナへの見方を大きく揺るがすものだったように思います。グレンを先生として引き止めたシスティーナですけれど、はからずもグレンにとってもシスティーナにとっても、お互いの関係を先生と生徒、という枠に収まらないものにする転機となったのではないでしょうか。

一方で、肝心の禁忌教典についてはひたすらと真実へと至るまでの道程の基礎固めを進めている感じ。なかなか核心へと踏み込まずに、周辺を入念に埋めてる感じだけれど、だからこそ一度核心へと事態が進むと一気にクライマックスまで行きそうな溜めが感じられるなあ。

シリーズ感想