黒崎麻由の瞳に映る美しい世界2 amorosamente (ファミ通文庫)

【黒崎麻由の瞳に映る美しい世界 2.amorosamente】 久遠侑/ はねこと ファミ通文庫

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……本当にやっと、生きることが楽しく思えてきたから。

文化祭、そしてノギハラとの件を経て、少しずつ変わってきた黒崎。本格的にピアノを習いたいと言う彼女を、僕は入谷市で行われるコンサートに誘うことにした。その奏者である青島未華子さんは、黒崎のお母さん、奏さんの教え子であることがわかり、黒崎との出会いを喜んでくれるのだけど、彼女は黒崎の両親の過去、そして二十年前の事件にも深く関係していたようで――。
第16回えんため大賞優秀賞受賞作、ドラマティック青春ストーリー第2巻、登場。
綺麗だなあ。
美しい世界、なんてタイトルにあげるからには相応の美麗たるものを、物語として示さないといけない心積もりはあったんだろうけれど、うん、このタイトルも納得の「美しい」純愛ストーリーだった。
主人公とヒロインの二人共が物静かな性格をしているから、凄く落ち着いた静かな雰囲気で物語は流れていく。静謐と言っていいくらいの雰囲気は、透明な情景描写や深々と丁寧に塗り重ねられていく内面描写と相まって、思わず目を閉じて情景を思い浮かべて浸ってしまうような美しさをそこに描き出していくのです。
かと言って、二人が浮世離れしている、というのではないんですよね。そこにある美しさは、人智を超えた手の届かない場所に描き出される美しさではなく、何気ない日常の中でふと目を留めた瞬間にそこにある手に届く美しさなんですよね。
人から外れた、神懸った美しさはそこにはもう無いのです。前巻、黒井くんとの交流にとって黒崎麻由を取り巻いていた神性は剥がれ落ち、今ここにある彼女は無垢で純粋な一人の女の子に過ぎず、誠実で生真面目な少年と紡ぐ純愛は、ちゃんと地に足がついたものだから、そんな彼ら二人が織りなす日常だからこそ、その美しさは静謐でありながら、どこか安心できる温もりを宿しているのでした。
二人は世界から孤立せず、仲の良い友人たちに囲まれ、そうした交流は新たな友人の誕生や、黒崎の母のピアノの弟子であるピアニストとの師弟関係、或いは姉妹と言っていいだろう関係の芽生えによって、ゆっくりと外へと広がっていく。
それは、過去に閉じこもろうとして今を閉ざした彼女が、生きたいと願って歩き出した彼女が、自分が望む未来の絵図をしっかりと描き始めた、その証左であるのだろう。一巻で、生を取り戻した少女が、大切な人たちと未来へと歩き出すのが、この二巻の役割だったのだろう。
そのために、もう一度彼女は自分の過去と向き合うことになる。図らずも、過去を今も引きずり続けていたピアニストとの出会いが、黒崎に彼女の知らない母の素顔を教えるきっかけとなり、もう一つの、もう一人の彼女たちの交錯点である、若くして亡くなった詩人の若者、幽霊として黒崎を見守ってきた青年の真実に触れることになる。過去と向き合う痛み、真実を知る息苦しさ、目の前に立ち塞がる現実。生きる勇気を得た黒崎に、それらは止めどなく降り注いでいくのを、黒井くんは自分に何が出来るのかを常に思い悩み煩悶しながらも、じっと見守り、支え、勇気づける。真摯な、想いだ。それはとても純粋で、懸命で、一途な想いだ。
静謐で決して言葉を多く費やさない、しかし万感の想いが往還するとても情熱的な純なる愛情。眩しくも、ずっと見守っていたいような、とても綺麗で美しいラブストーリー。ある程度、一巻で物語は形を得ていたのかもしれないけれど、めでたしめでたしではなく、これからも彼らの歩みがいつまでも続いていくために、この二巻は必要だったのでしょう。そう思わせてくれる、終わりとはじまりの物語でした。

1巻感想