キズナの姫と生徒会騎士団 (角川スニーカー文庫)

【キズナの姫と生徒会騎士団】 降橋いつき/悠久ポン酢 角川スニーカー文庫

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未知の異能力(キズナ)を発現し、異世界で姫を守る近衛騎士だったユウリたち五人は、現代日本に転生してしまった…!記憶を取り戻したユウリは、現世での、姫とのあまりに近い距離感に戸惑いながらも、自身の内に淡い恋心が芽生えていることに気づく。そして、その想いは姫も同じで…。決して許されない、身分を超えた恋愛の行方は!?異世界の姫と近衛騎士が、現世で生徒会結成!期待の新鋭がおくる、激甘青春ストーリー!
中二病扱いでいいのか、それ!? ある日、突然前世の騎士だった頃の記憶を取り戻したユウリ……いや、これ取り戻したんじゃなくて完全に塗り替えられてますよね? 高校まで生きてきた記憶が全部消去された上で、異世界の記憶に上書きされてしまったわけで。現代の知識なんか何もない状態ですから、相当の混乱をきたしている上に騎士としてのユウリはどうやら融通のきかない堅物だったようで、突然わけのわからない世界で目を覚ましておきながら、騎士としての自分を崩そうとしないわけです。守るべき姫がこちらでも傍に居たから、というのもあるのでしょうけれど。
どう見ても、頭のオカシイ人なんですけど(苦笑
これを中二病のロールプレイとしてまたか、と流されてしまっているあたり、元のユウリもどれほど酷かったんだ? 逆に言うと、幼なじみの姫や妹をはじめとして、誰もユウリの中身が入れ替わっていることに気づいていない、という事でもあるんですよね。これは、ちょっと可哀想なんじゃないか、と思わないでもない。元のユウリと、今の異世界の騎士としてのユウリが「同一人物」だったとしても、記憶に関してはまったく連続していないわけですよ。現代日本で十五年近く、姫たちと過ごした記憶、思い出を何も共有していないわけで……。
姫がユウリに対して、淡い想いを抱いているのはユウリからの接し方に一喜一憂したり、結構嫉妬深く拗ねたりしている様子からも明らかなんですけれど、彼女が恋していた相手は幼いころから一緒に過ごしてきた幼なじみのユウリであったはずなのに、そのへんの齟齬についてはあんまり触れられてないんだよなあ。
ユウリの方も、姫の気持ちについて鈍感ながらも薄っすらと察してきているんだけれど、それが自分に向けられたものなのか、幼なじみだったユウリに向けられているのか、については頓着していないみたいだし。二人のユウリの同一性について、まったく疑問を抱いていないみたいなんだよねえ。記憶、全く無いのに。同時に、異世界での姫とこの日本での姫の同一性についても、同様なわけです。
ユウリと姫の甘酸っぱい青春模様は、なかなかに好ましいものだったんだけれど、幼なじみのユウリの存在が抹消されてしまって、誰も気にしていない、ユウリ当人もあんまり気にしていない、というのがちょいと引っかかって気になったままだったんですよね。
……もし、姫の異世界の記憶が戻ったら。それって、この日本で生きてきた姫の記憶が、ユウリの記憶が戻ったあとに一緒に過ごして淡い想いを紡いだ、生徒会長としての彼女の記憶も喪われてしまう、ということなんじゃなかろうか。
シチュエーションとしては、かなり難しい葛藤を伴うような危ういものになっていると思うんだけれど、果たしてそのへん考慮して物語が作られているのだろうか。
異世界でのそれぞれの生い立ちなんかも触れられてはいましたけれど、それが現代での物語に反映されているかというと、転生前に比べると平和で幸せに過ごしています、以上の突っ込んだ話にはなってないしなあ、転生したという事実以外が活かされているかというと、あんまりねえ。
姫が、騎士であろうとするユウリに鬱屈をためていく、というのは転生によって起こった齟齬だったのでしょうけれど、ユウリが騎士としての立場を解いて歩み寄りをみせたことであっさり解消されちゃったしなあ。立場や身分の差、生い立ちなどを全部リセットできたからこそ、この異世界たる現代日本でかつては許されなかった想いを遂げる事が出来る、というのは大きいんだろうけれど……。
青春模様や異世界からの転生、というシチュエーションは面白かったんだけれど、そのシチュエーションを上手く使っているかというと、疑問を感じる作品でもありました。