折れた聖剣と帝冠の剣姫(1) (一迅社文庫)

【折れた聖剣と帝冠の剣姫 1】 川口士/八坂ミナト 一迅社文庫

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知略の英雄、カーヴェル王国のルシード王子。勇猛な聖剣の姫、パルミア王国のファルシェーラ王女。大陸に名を知られる二人が率いた軍は、リスティオンの野で激突し、かつての幼なじみである二人は死闘を繰り広げていた。ファルシェーラの軍勢は着々とカーヴェル軍の陣容を切り崩し、ルシードが首級を上げるべく剣姫ファルシェーラが突入、ついに互いを強敵と認めていた二人は戦場であいまみえる。時を同じくして二人の英雄不在のときを狙ったかのように両国で政変が発生。二人は帰るべき祖国を失う。かくして同じ立場となった王子と王女の二人は居場所を求め世界を旅することになるのだが、その最初の行く手にはかつての勇者が封印した巨大な竜が待ち受けていた。ルシードとファルシェーラ、二人の前に最初の試練が訪れる。
あらすじであらかた語ってしまっているのはいいんだろうか、これ。しかも、ふたり旅ではなくてルシードの妹姫コンスタンスも一緒に逃げて三人旅にも関わらず、まるで居ない娘扱いじゃないか(苦笑
しかし、コンスタンスって腹違いの妹のはずなんだけれど、一貫して義妹表記なんだがこれって意味あるんだろうか。義理の妹なら結婚できますよってか? ちなみに、幼いころに交流していた相手には、ファルの姉姫様もいらっしゃるので、幼なじみハーレムというシチュエーション狙いという可能性も考えねばならぬようだな!
でもこれ、新しい国造りのお話なんだけれど、国の王様になるのってこの流れだとルシードじゃなくて、ファルシェーラっぽいですよね。王権の証が本物の聖剣である事と、あと新しい国を作りたいと言い出した上でどんな国を作りたいか、という方向性を決めたのがファルなわけで、ルシードとコンスタンスはその夢に乗っかるという形で参加したので、あくまで主体はファルなんですよねえ。
新国家建設という目標を打ちたてた上で、ファルはルシードたちを誘ったわけだけれど他国の、しかも妾腹とはいえ王族であるルシードを旗揚げのメンバーに選んだ時点で、どう考えても実際に国がちゃんと成った時の結婚相手ってルシードしかいないんだけれど、当人たちその辺どのくらいまで考えてたんだろう。ファルはわりと「そのつもり」である素振りはあるんですよね。ルシードもその辺わかってないはずはないんだけれど、まさ先のことは後回しにして考えないようにしている感じではあるわけだが……ファルが女王になったら、王配が嫁さんたくさん持っていいんだろうか、と思わないでもない……が、みんな身内だったら血統としては逸れてないからいいのか、別に。

古くから敵対していた国同士の間に訪れた、僅かな休戦期間。その際に行われた国家間交流で幼い頃の時間を共に過ごしたカーヴェル王国の兄妹とパルミラ王国の姉妹。
長じて、再びカーヴェルのルシード王子とパルミラのファルシェーラ姫が再会したのは、お互いが軍勢を率いてぶつかり合う戦場であった……という、幼いころに友誼を交わし仄かな想いを抱きあった幼なじみ同士が久闊を叙する代わりに戦場で槍を交わし合う、というなかなかにワクワクする戦記モノとしての舞台からはじまるこの物語ですが、こっからの展開がまた大胆というか贅沢というか。
この作品、戦記モノであると思ったら、貴種流離譚に様変わりして、そこから少人数のパーティーで秘境に眠るという伝説の聖遺物を求めて旅する冒険譚になったと思ったら、僅かな人数の同じ志を持つ者同士で全く新しい国を一から立ち上げる、という国作りの物語になる、という一つのネタで1シリーズ作れそうなのを上手いことブレンドして一つの作品にまとめ上げる、という凄まじく贅沢な作りをしてるんですよね。作者の川口さんのこれまで描いてきた物語の経験を注ぎ込んでいるのが伝わってくるだけに、非常にワクワクさせられるスタートであります。
主人公のルシードは、王子という貴種の身の上ではあるものの、妾腹の子として王宮ではかなり肩身の狭い思いをしている上に、母が亡くなるまでは貧民窟で育った、という経歴で、王族で将軍でありながらもわりとしがらみがないんですよね。母方の伯父が冒険家であるせいか、旅や冒険に憧れを持つような側面もあり、王子でありながらクレバーな自由人な感じなんですよね。これで、国に縛られていたら王子という血筋は枷になるんですけれど、国を追われた身の上だと逆に武器の一つになってくるのが面白い。新国家を立ち上げるにも、王族の血は大きな要素の一つになりますし、ファル姫との身分差に悩むこともないですからねえ。唯一のしがらみとなり得るはずだった妹のコンスタンスも、ちゃっかり逃亡の旅にくっついてきちゃってるわけで、もう何の憂いもないわけです。ファル姫も、あちらの国で色々と不自由な身であったらしく、コンスタンス含めて三人と、国を追われた立場でありながらその事実に落ち込み傷つき鬱屈をためるどころか、むしろスッキリしたと言わんばかりに籠から飛び出した鳥みたく、羽根を伸ばしてのびのびしている様子には思わず微苦笑してしまったり。溜まってたんだなあ、色々と。
未だ合流出来ていない姉姫さまも、いずれ登場してくるでしょうし、新しい国を立ち上げる目処こそついたものの、それにはいきなりのリミット付き。周りは既存の国家群に囲まれ、自分たちは賞金首。率いる兵士も国民もいない三人きりの国の旗揚げ、とそれだけでも相当どころではないハードルの高さなのに、その上にまたとんでもないリスクを背負ったもんだわ、と思いつつもリスクをメリットに変える算段はあるわけで、さあどでかいスケールのシリーズのスタート、ワクワクしますなあ。

川口士作品感想