異世界迷宮の最深部を目指そう 4 (オーバーラップ文庫)

【異世界迷宮の最深部を目指そう 4】 割内タリサ/鵜飼沙樹 オーバーラップ文庫

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Kindle B☆W

―戦いは終わった。少年は休息を経たのち、命の恩人であるパリンクロンの協力によって、冒険者ギルド『エピックシーカー』のギルドマスターとなる。妹のマリア、竜人のスノウと共に平和な時間を過ごしていく、足りないものは何もない幸せな日々―。だがそんなある日、少年は仲間だと名乗る二人の少女、ラスティアラとディアに出会う。「初めまして、僕はアイカワ・カナミです」運命の新章を切り開く異世界迷宮ファンタジー、第四弾!
もー、これに登場するヒロインのメンタルぐずぐず率の高さと来たら……。病んでない健全な女の子はいないのか!? まあ女の子に限らず、男もいい具合にイカレちゃってる人が往々なので、どれもこれもなのですけれど。
パリンクロンによって精神を弄くられ、記憶を改ざんされたカナミとマリア。彼の手引によってギルドマスターに祭り上げられ、サブリーダーのスノウと一緒にギルドマスターとして日々奮闘することに。
……なんか、すごくまっとうなんですよね。カナミも、ジークとして生きてきた頃に比べて、自分の中の善性と勤勉さを何の疑念も不信もなく、素直に前面に出して働いて、それが周りに受け入れられ、認められ、その功績はみんなから真っ当に讃えられる。細かいトラブルは幾つもあるものの、カナミもマリアも誰も苦しまない陽の光の下の正道を歩みはじめるのである。

パインクロン、怖いわ、これ。

恐るべきは、精神操作・記憶改ざんされている事がある程度カナミにも自覚されるくらい秘密の統制はゆるいにも関わらず、それに触れられないようになっている。精神操作の事実から無意識に目を逸らすように操られている、という理由もあるんだけれど、その操作にカナミが抵抗できることも前提なんですよねえ、これ。
ラスティアラとディアの接触も妨げてない。
その上で、記憶が改ざんされる以前よりも、今の方がカナミも、そしてカナミが誰よりも大事にしているマリアも、幸せでいることが出来る、という事実を突き付け、さらにスノウと一緒に過ごさせることで彼女に情が移るそうにした末に、カナミがギルドマスターとして英雄となり彼女を守ってあげないと、彼女は確実に不幸になる、という状況に追い込んでいるのである。
カナミが、記憶を取り戻そうとすれば、彼自身ではなく周りを巻き込んで不幸になってしまうけれど、それでも記憶取り戻す? とわざと制約を緩くしてカナミ自身に選択するように仕向けているんですよね、これ。
エグい。実にエグい。こいつ、ぶっ殺してえ。

前巻で、多くの偽りで身体も心も鎧ってきたカナミたちが、ようやく自分の中の本当を、本当に求めるモノを見定めようと前に進みだしたところで、そのすべてをぶった切った挙句に、この偽りの事実の上に築き上げた現実に存在する幸せの檻の中に閉じ込めて、その中にとどまるも壊すも君次第だ、と言わんばかりに突き放す。
手を変え品を変え……もうやだこれw

破綻に至る亀裂は既にもういくつも見えている。惨劇の萌芽もまた、いくつも芽生えている。そして、この物語のトゥルー・ルートを辿るには、カナミは破綻を防ぐのではなく、むしろ自分で破滅を選ばなければならない、ということになるわけで……。
私ね、こういうこれでもかと主人公やヒロインを追い詰めて追い詰めて精神的に殺しに掛かるお話って……きっと大好物なんだよね、うん。
好きな子ほど苛めてしまうのが、作家の本分だと思うのよ。我が子を千尋の谷に突き落としてこその愛情なのよ。その本分を、ねちっこくねちっこくこれでもかこれでもか、といびり倒すように実に丹念に趣向を凝らし、手を変え品を変え舐るようにやり倒すこのやり口には、溢れんばかりの愛を感じて仕方ありません。背筋がアワダチソウですけれどw

しかし、カナミ以外寄せ付けない難攻不落のヤンデレかと思われたマリアに、あんな方面からのチョロさがあったとは……ふむふむ。

シリーズ感想