大陸英雄戦記 1 (アース・スターノベル)

【大陸英雄戦記 1】 悪一/ニリツ アース・スターノベル

Amazon
Kindle B☆W
「俺」ことユゼフ・ワレサが現代日本から転生したのは、魔法のある中近世欧州風の世界。
しかも滅亡寸前の小国の農家だった!?

チートも無く、家柄も無く、魔力も人並みな「俺」は、祖国を救うために士官学校に入学。
ハードな戦争と政治の世界で大活躍する!
魔法という要素はあるものの、大陸の地理はまんまヨーロッパ。歴史の辿った経緯こそ異なっているものの、概ね中近世の欧州と同じような国情へと収束していっている。そんな中で、主人公ユゼフが生まれたシレジア王国が該当するのが「ポーランド」なのだ。
ポーランド、また渋いところに的を絞ってきたものである。この国が辿った歴史の紆余曲折は、西北東の様々な大国、勢力から干渉を受け、また逆激する激動の中欧史と合わせて非常に興味深いのだけれど、近代に入ってからの四方八方から食いちぎられていく苦難の時代に代表されるように、全方位を列強に囲まれた小国の、しかも元は強大な国だった過去を持つ斜陽の国の悲哀を背負った国なんですねえ。第二次大戦におけるドイツとソ連による分割が有名ですけれど、それ以前から非常に苦しい舵取りを強いられてきた国でありますし。
この作品の舞台となるシレジア王国も、四方を「東大陸帝国」「オストマルク帝国」「第二キリス帝国」などに囲まれ領土を狙われ、国力は傾き、政情は国王派と王弟派に分かれて暗闘中。まさに滅びに向かって真っ逆さま、という真っ最中。シミュレーションゲームでも、真っ先に攻められ消滅する立ち位置なわけです。
主人公のユゼフくんは、身分は貧乏でもないけれど富裕層ではない農民の出身。一念発起して、士官学校に入学したものの、転生者とはいえ別に何か特別な能力があるわけではなく、実のところ現代知識を利用して云々、ということは殆ど言っていいくらいしてないんですよね。
面白いのが、この作品の時代背景がおおよぞ18世紀から19世紀あたり、というかなり近世に近い時代というところ。銃火器こそ存在しないものの、魔法の存在がおおむね火砲の代わりをなしている、と見れば当時の軍制から突飛には外れていないと見るべきか。
この時代、封建的軍隊から近代的軍隊への過渡期ともいうべき時代で、貴族と平民という身分差が明確に存在すると同時に軍内では尉官佐官将官などの階級制度が徐々に整い出している時期でもあるわけです。この作品を見る限り、国の運営や地方自治はまだ貴族階級が牛耳っているものの、兵力は貴族が独自に有しているのではなく、中央集権化が済んでいるようです。
ともかく、意外とこのあたりの時代を舞台にした戦記モノってあんまり見ないんですよね。だいたい文明レベルで言うと中世か、或いは近現代が殆どで。
ある程度以上に、政府官庁の組織が近代化されていること。国民一人ひとりの生活レベル、国への帰属意識が中世寄りではなく近代寄りであること。それでいて、まだまだ貴族階級による統治が政治全体に及んでいること。この中世から近代の過渡期ゆえのシステムの混在をうまいこと利用して、中世近代の要素のいいとこ取りをしているんですよね、この作品。
シレジア王国のエミリア王女を盛り立てて、滅びの道を辿る故国を守ろうという由緒正しい戦記モノでありながら、その内実として近現代寄りの国家間・国内派閥間の政治外交闘争、或いは情報戦や謀略戦といったパワーゲームが繰り広げられていくわけである。
ユゼフくんは、戦記モノでいうところの軍師ポディションになるんですけれど、彼って軍参謀タイプというよりも……英国エリザベス女王におけるフランシス・ウォルシンガムっぽいんだよなあ。いや、ちゃんと戦場における参謀職としても非常に有能なのですけれど、後々の外交や情報戦での悪辣さを見るとねえ。

ともあれ、彼が国の行く末に手を突っ込めるような場所に立つのはもう少し先の話。この一巻では、初陣にてシレジア王国の一粒種であるエミリア王女との知遇を得て、士官学校で将来に渡って運命を共にする5人の友人たちとの仲を深めていく過程が描かれていく。そして、初陣の時の戦いとはまた異なる、泥沼の闘争の渦中へと放り込まれるまでのお話が。

書籍化にあたっては、書きおろしがさらに二編追加。特に面白かったのは、エミリア王女とユゼフの模擬演習か。このへんでエミリア王女、指揮官としてビシビシ鍛えられてたんだなあ。この時点ですら、既に軍司令官として相当に優秀であることを示してるのに。でも注目すべきは、ラディックの方かもしれませんね。兵站管理者として、こいつが一番チートかもしれん。