正直バカはラブコメほど甘くない青春に挑む (ダッシュエックス文庫)

【正直バカはラブコメほど甘くない青春に挑む】 慶野由志/伍長 ダッシュエックス文庫

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考えたことすべてが言葉と表情に出てしまう「正直バカ」の高校生・春先真太郎は、転校してきたばかりの憧れの美少女・神楽琴葉や、エロス探求に燃える十月九日、常時暴走気味の更級燐子といった残念美少女たちとの青春生活を送っていた。だが生徒や先生が急に意識を失って倒れる『連続昏倒事件』が学校で頻発していて、ある日燐子も昏倒してしまう。そんな中、真太郎の自宅に「鏡の付喪神」だという少女が現れる。“心の姿を映す能力”を持つ彼女と共同生活を送ることにする真太郎だったが、その翌日、突然自宅を訪ねてきた神楽が「その付喪神を今すぐ渡せ」と要求してきて―!?煩悩全開の主人公が謳歌する、シースルー青春ラブコメ!
おのれ、どれだけハートウォーミングすれば気が済むのか。心がぽかぽかするんじゃぁ。
物語の世界観は前作の【つくも神は青春をもてなさんと欲す】シリーズと同じで、付喪神となった道具の化身たちとのハートフルストーリー。まさか、付喪神が祖父から突然送られてくるところから同じ、とは思いませんでしたけれど。前作の主人公の骨董屋の息子と本作の主人公の真太郎は従兄弟同士なのですが、その二人に必要だった付喪神、或いはその付喪神にとって真に必要だった主人のものへ、的確に送り込むこの爺さん何者だ、という話にもなるんですけれどw
相変わらずこの作者は、話の内容自体素朴と言っていいくらいストレートなものなんですけれど、イキイキとしたキャラクターと軽妙な語り口、そして誠実で湿潤な善性の描き方によってものすごいハートに響く物語になってるんですよね。本作もまた、自分の在り方に傷ついてきた人間と付喪神が出会い一緒に過ごすことによって、お互いが持つまっすぐで温かい好意が往還されて、傷が癒され自分の生き方、道具としての在り方を肯定出来るようになっていく。そうして得たものを、惜しみなく周囲で同じように苦しんでいる人たちに与えて共有していくことで、幸せの輪を広げていく、そんなもうたまらなく心を温かくしてくれるお話なわけです。
主人公の真太郎は正直バカと呼ばれてしまう、心の声を無意識に垂れ流しにしてしまう少年。その自分でも制御できない正直さはずっと彼を苦しめていて、この高校で出会った優しい友人たちによってそんな自分を受け入れることが出来たものの、心のどこかで「正直者はバカを見る」みたいな思いがこびりついていたのです。一方で、鏡の付喪神である雪果もまた人の真実を映し出す鏡としての自分の在り方で過去大きく傷ついたことでその鏡としての力に自己否定に近い思いを抱き続けていたわけです。そんな二人が出会い、そうして二人が心の奥底で本当は求め続けていたものを、彼は雪果に、彼女は真太郎に与えてくれるんですよ。人が飢えるように求め続けていたものを得た時、嬉しいというだけでなく、むしろ泣きたくなるもんなんだなあ。
この子たちが本当にいいなあと思うのは、自分を肯定出来るようになった時にそれまで己を苛んできた部分を切り捨てたり、裏返しにして否定するのではなく……例えば真太郎だったら自分の正直さを肯定できるようになったと同時に、自分を偽ったり嘘をついたりする事をもそれが必要だったら肯定する、という姿勢を見せたところなんですよね。価値観を白黒や善悪で規定してしまうのではなく、たとえ自分を苛んできたものでも一つの正しい解答として笑って受け入れることが出来る。そのうえで、何が一番正しいか、いや皆にとってその人にとって一番良いことなのか、を一緒に考えることができる。
その在り方こそ、人にとっては救いそのものになるのでしょう。彼の正直さは、まさに癒やしになるのでしょう。
若い男子らしいエロス駄々漏れの思考と、えっちいシーンに遭遇したら目を逸らさずガン見してしまう性癖はまあご愛嬌。いや、それがご愛嬌で済まされるあたりが、この男の人徳なのでしょうけれど、実に主人公に相応しい「イイ男」でございました。
前作とは、キャラクターを入れ替えただけで殆ど同じシチュエーション、というのは若干気になるところではありますけれど、キャストを総入れ替えすることで雰囲気はそのままに、話として新鮮さもありますから、これはこれでいいんじゃないかなあ。
というわけで、この作品もシリーズ化を期待。

慶野由志作品感想