サクラ×サク04 (ダッシュエックス文庫)

【サクラ×サク 04.滅愛セレナーデ】 十文字青/吟 ダッシュエックス文庫

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最後に水浴びをしたのは、いつだったか。五日前?もっとか。十日前…?ハイジ・バランは、まだ、生きています。大王都カバラからなんとか脱出したものの、帝国の軍勢は既にデスティニア公国へも進軍していた。大軍で押し寄せる帝国軍にサクラたちは少数精鋭で立ち向かう…!血が滾って色々躍る大戦詩幻想交響曲、運命が軋む4巻!!
一貫して姫様激ラブで変わらないのはハイジくんだけれど、一方でサクラはこの婚礼の旅に出てから随分と変わりましたよね。この過酷で次々と随行の人たちが切り刻まれるみたいに殺されていく悲惨な旅の果てに、姫さまは何を思ったのか。あれだけ酷い旅の終着が望まぬ政略結婚であった挙句に、帝国の侵攻によって全てが台無しにされてしまい、今度は公国への逃避行ですからね。
自分を押し殺し、すべてを跳ね除けながら、みなを守ろうと無駄に足掻いていた姫様。自分の価値を最低に見積もって、自分を消費し尽くすことで国や民や兵士を守ろうとしていたサクラ。でも、婚礼の旅では、そんな自分が戦争の道具ではなく、政略の駒として自分の力ではどうにもならない立場に置かれ、その立場故に自分こそが一番守られなければならなくなった婚礼の旅で、他でもない自分の為に死んでいく人々を目の当たりにして、彼女は自分だけを犠牲にする戦い方をしなくなったように思う。自分を守って死んでいく兵士たちに悲しみ苦しみながらも、その誇りを讃え、その死に相応しい姫であろうとするようになった。
そうして、彼女は少しだけ、本当の気持ちを表に出すようになった。
サクラは少しだけ、自分を押し殺すのをやめて、素直になった。
それは、或いは諦観の果て、故だったのかもしれない。絶望すらも通り過ぎた、諦めの境地だったのかもしれない。それでも、彼女の願いはその口からこぼれだした。そのあまりにも哀しく、そして切望に満ちた願いは、だからハイジに届いたのだ。
そして、ハイジ・バランという男は致命的なほどに空気が読めず、だからこそサクラの諦めも、彼女の異能の摂理すらも一顧だにしなかったのだ。端からどうでもよいという風に、姫への愛になりふり構わずのたうち回ってみせるしかない男なのだ。物分かりなんて、良くない以前に出来ない男なのだ。
バカだからこそ、押し通せる一念がある。愚かだからこそ、この世の真理ですら通用しない。ハイジ・バランは度し難いほどバカで愚かな男であるからこそ、その一途さは決して誰にも届くことのない場所にまで手が届いたのだ。だからこそ、サクラ姫に相応しいのはこの男だけなのだ。彼だけが、絶望を通り過ぎた先に至る姫の諦めを、打ち崩す。

一方で、また違う形で愛する人へ殉じる男も居る。ハイジとサクラのそれが触れ合えなくても触れ合おうと足掻く二人なら、亞璃簾と不人のそれは癒着に似た不可分だ。僅かな間離れただけでも、お互いの心に波が生じるほどの比翼。それは、二人の立場がどう変わろうと何も変わらない不動の同一性。でもだからこそ、その安定性こそが男の内面をじわりじわりと煮立たせているように見える。亞璃簾もまた、無垢なほどの無自覚の中で一歩一歩後戻りできない自覚を育んでいるように見える。この二人は、或いはその癒着を引き剥がし一人の人間と人間として向き合った時にこそ、一人の男と一人の女として始まるのかもしれない。始まってしまえば、その時点で致命的なようにも思えるほど、あまりにも深くはまり込んでいるけれど。

そして、その異能の特筆性ゆえに、既に奈落に落ちている男も居る。一心不乱に狂気の淵で踊っている男がいる。これこそが、ラスボスだ。この物語の、極北だ。ついに見えた。戦うべき相手が。
この男の愛こそが、みなを舐め尽くしていくだろう。踏みにじっていくのだろう。まずは一組の兄妹の愛が穢された。
そうして、許されざる愛の数々がせめぎあい、相い争う。お互いを許せず認めず滅ぼしつくそうと、殺しあう。
サブタイ「滅愛セレナーデ」。
つまりは、そういう事なのだ。


シリーズ感想