灰と幻想のグリムガル level.7 彼方の虹 (オーバーラップ文庫)

【灰と幻想のグリムガル level.7 彼方の虹】 十文字青/白井鋭利 オーバーラップ文庫

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『黄昏世界』から脱出したハルヒロたちは、グリムガルとも異なる『太陽の昇らない世界』にへと足を踏み入れた。なんの情報もないまま、それでも仲間を率いるハルヒロ。幸いなことに、異界の住民たちが住み着く村を発見し、ひとまずの安全を確保できたものの、過酷な環境に問題は山積みだった。更に最も必要とする「グリムガルに帰る方法」はまだ手がかりさえも見つからない。自分たちは帰ることができるのか、そして時たま頭をよぎる本当に『帰る』場所は違うところなのでは、という感覚。様々な想いを胸に抱きつつ、ハルヒロたちは、異界の探索を進めていく。灰の中をさまよい、行き着く先には―。
グリムガルじゃないですけど! もう随分と長いことグリムガルじゃないんですけど! 5巻でワンダーホールから黄昏世界、というグリムガルとは違う別の異世界に狩場を移して以来、ハルヒロたちグリムガルに居ないんですけど! まだ戻れる間は良かったものの、黄昏世界でのスタンピードをきっかけに元のグリムガルに戻るに戻れなくなり、逃げ惑った挙句に今度はさらに違う「太陽の昇らない世界」に迷い込んでしまったハルヒロたち。
凄まじい世界である。何しろ、太陽がないのだ。一日の僅かな時間、地平線の向こうで何か燃えてるような光が見えるだけで、暗がりに覆われた世界。その上、人間族が居ない。グリムガルでは見たことのなき奇怪な見た目の怪物たちが、この世界の知的生命体として社会を形作っている。言葉も何も通じない、そんな世界に放り出され、それでも手探りで生き残るすべを見つけていく、異界の社会の中で生活していく術を探りだしていくハルヒロたちは、何だかんだとタフというかしぶといチームなんですよねえ。言葉も通じない、貨幣も何も持ってない段階から、通貨らしきものの入手手段を手に入れ、試行錯誤で異界人たちと意思の疎通を図り、どうにかこうにかやっていく目処を立てていくんですから。
何気にサバイバリティが高いんだよなあ。
これだけ「生きる」ことに苦労することになったのは、義勇兵をはじめた当初以来となるのだけれど、それでもこれまでのノウハウがあったせいか、環境としてはグリムガルよりもこのダルングガルの方が厳しかったものの、生活が安定するのはこちらの方が早かった気がする。とはいえ、作中時間はけっこう経ってるのですけどね。でも、チームの、パーティーとしてのまとまりやそれぞれが役割を把握しているという意味では、今の方が遥かに充実しているためか、何とかなりそうという頼もしさは以前とは全然違いましたね。

それでも、異世界で生きていかなければならない、もしかしたらこの後ずっとこの世界から抜け出せないまま、骨を埋めないといけないかもしれない、という先が定まっていく心細さは今までにないものでした。
これがグリムガルなら、ハルヒロのチーム以外にも同じ境遇の人間たちが沢山居て、厳しい世界と言っても同じ価値観、文化、世界観を有した同胞たちが周りに集っていたわけですから、ハルヒロたちがもしかしたら自分たちは違う世界から来たのかもしれない、という違和感を持っていても、孤独感や寂寥のようなものはそれほど感じなくて済んだはずなんですよね。
ところが、このグルングガルではそもそも同じ人間種が自分たち以外存在しない。歴史も文化も理解できない、見た目も不気味で異常極まる異質な生命体が社会を織りなしている、自然環境も理解できないルールの元に成り立っている、異世界……異界。そんな中で、人間は自分たちだけ。その孤独感は想像するにあまりあり、もしかしたらこの世界に骨を埋めなくてはいけないかもしれない、という考えにはキリキリと内臓が絞られるような恐れがつきまとう。
だからこそ、たった仲間をみんな喪ってたった一人この世界に迷い込み、取り残されたまま生きてきた元義勇兵の男との遭遇は、これまでで一番運命的なものを感じたのでした。もっとも、彼の存在がどのように作用するか。このグルングガルで生きていく覚悟を得るのか、それともこのグルングガルから脱出する決意をもたらすのかは、ハルヒロたちの心持ち次第、或いはタイミング次第だったのでしょうけれど。
元義勇兵……ウンジョーさんとしても、彼らとの出会いはある種の踏ん切りだったんだろうなあ。諦めがつきまとっていた中で、納得を得たというか。仕方ない選択ではなく、自分の選んだ生き方だったのだ、と。

周りの強力な、ある意味個性的と言ってもいい他のパーティーのうるささがなかったせいか、久々にハルヒロたちのチーム一人ひとりに焦点が合わさり、じっくりと生活環境を整えていく過程でお互いの関係を見つめなおす機会にもなったようで。
兎にも角にも、メリィとクザクの関係がどうなっているのか、ハッキリして良かった。ほんとよかった。もうずっとハルはもやもや抱えてたもんなあ。でも、一度はっきりするとメリィの言動に対して色々と想像をめぐらしてしまう余地も増えてしまうわけで……。時々、あれあれ? と思うような態度とかセリフもあるんですよねえ。むふふ、むーん。
シホルの方から、改めてハルがみんなからどう思われているのかについて、お説教混じりに話があったのも、なんとも感慨深い。ちょうどアニメはじまった時期だから、冒険を始めた頃の内気で引っ込み思案なシホルの姿を目の当たりにしているだけに、今のこうしてちょっと頑張りすぎてたハルに対して、きっちり釘を指したり、はっきりと言葉にして思うことを語ってくれる彼女の姿には、シホルもどんどん変わってるんだなあ、と思うことしばしば。
まあ、それよりもランタ相手限定とはいえ、凄まじい毒舌家、になってしまってるんですけどね、この娘。
クザクの方からも、ようやくというべきか、仲間になってからずっと胸に秘めていたことを吐露するシーンが。やっぱり、クザクも思う所あったんだよねえ。それを今まで口に出してこなかったのは意地でもあり、配慮でもあったのだろうけれど、こうしてハルヒロと穏やかに胸の内を語り合えるまでに、ようやく自分のチームでの立ち位置に余裕を見いだせるようになったのか。
こうしてみると、ハルヒロは本当にこのチームのメンバーのこと、好きなんですよねえ。大事にしてるんですよねえ。だからこそ、自分を費やしてしまう。決して思い上がらない。ランタのこと、死ね死ねとかいつも思っていながら、いざとなった時自分とどちらを優先するか、まったく迷わずその答えを口にしたシーンでは、こちらも思わず息をつまらせてしまいました。
この子は本当に……。
だからこそ、他のみんなもハルのこと、物凄く信頼しながらどうじに心配してるんだろうなあ。信頼というのは、容易に依存の要素をはらんでしまいかねないのだけれど、マナトの時の失敗もあり、そして何よりハルヒロという人間の危なっかしさが、彼に寄りかからずに済んでいる要因なんでしょうねえ。
シホルやメリィの気遣う様子からも、今回よくそのへんが見えた気がする。

結果として、彼女らの心配は顕在化してしまうのですけれど。あれ、ランタあたりも似たような心配してたっぽいなあ。こいつの場合、配慮もなにもあったもんじゃないんだけれど、その配慮のなさは時として他の面々には出来ない、乱暴で無神経だからこそ暴露できるものもあるわけで……こいつ死ね、と思ってしまうのは変わらんですけどね!!

でも、まさかここまでハルのメンタルがやべえことになるとは思ってもいなかったなあ。すり減ってたんかなあ。
ラスト近辺のやばい雰囲気はシリーズ通しても、ここまで統制欠いてしっちゃかめっちゃかになってしまい、為すない状態になってしまったこと、なかったんで焦燥感がどうしようもなかったです。
これ、もし誰かに何かあったら、ハルヒロの精神相当にやばかったんじゃなかろうか。もう雑巾絞るみたいにメンタル絞り上げてくるような展開の連続で、読んでるこっちまでフラフラになりそうでした。
たまらん。

余談だが、ランタってあれ、ユメのことが好きっぽいんだが、それに気づいた途端、後ろから頭はたいて背中にヤクザキックかましてやりたくなったのでした。ランタのくせに、ランタのくせに。お父さんはゆるしませんよ。

シリーズ感想