アルカナ・ナラティブ (ファミ通文庫)

【アルカナ・ナラティブ】 射当ユウキ/シイ ファミ通文庫

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かつて天才詐欺師だった少年、翔馬。過去を悔いる彼は嘘を封印し、これから始まる“普通”の高校生活に思いを馳せていた。ところが入学初日、額に“1”の痣が浮かび、他者に自分の姿を偽って見せる能力が発現してしまう。同じように“2”の痣を持つ少女氷華梨と出会った翔馬は、この学校に『アルカナ使い』と呼ばれる能力者達がいる事を知り、さらに学内で巻き起こる様々な諍いへと巻き込まれてしまう―!?過去に囚われた子供達の贖罪と救済の物語、開幕!!
単なる学園異能モノじゃなくて、発現した能力はそれぞれが持つトラウマや鬱積などから生じたものなのか。能力自体も、例外はあるにしても特別凄いというものはなくて、メインヒロインの周防氷華梨のそれなどは、その人が嘘を言ったかどうかわかる能力とか、部長の完全記憶など魔法じみたものではないんですよね。
能力を便利な道具として使って事件を解決していく物語、というよりも能力という自分の傷を浮き彫りにしたものと向き合いながら、同じく傷を抱えた人たちと心を通わせ、一緒になって乗り越えていく物語、なんですよね。だから、コンセプトとしては非常に真摯な青春物語と言っていいんじゃないだろうか。
その中で、一際現在進行形で傷つきボロボロになっていたのが、メインヒロインである周防氷華梨であり、主人公の翔馬であったわけだ。特に、氷華梨のそれは当初、触れればそれで壊れてしまうそうなほど儚く、脆く、危うげだったんですよね。過去の事件から人のつく嘘に敏感になり、男性恐怖症となり、人間不信をつのらせ、それ以上に悪いのは全部自分、という自己否定を根幹に据えてしまっている。一方の主人公の翔馬の過去も壮絶で、幼さを言い訳にできない大きな許されざる「罪」を背負ってしまっていて、それゆえに「嘘」をつくことに非常に嫌悪を感じ、自分が幸せになることを否定してしまっている少年なのである。

この、嘘にまつわる大きなトラウマを抱えたもの同士である翔馬と氷華梨。二人の出会いから始まり交流によって育まれていく「想い」が、もう素晴らしいんだ。
これは、氷華梨の様子を見ていると非常に顕著なんだけれど、翔馬の自分の身を切るような行為によって守られ、勇気を得て、トラウマを乗り越えていく度に、彼の存在が彼女の中で大きく膨らんでいくのが如実に見て取れるんですよね。これが、上から救い上げるような一方的な行為ならともかく、翔馬のそれって同じ泥沼に肩まで浸かりながら、同じようなところにいる氷華梨を自分を顧みずに泥沼から押し上げるようなそれ、なんですよね。
同じようなところにいるからこそ、氷華梨には翔馬がどれほどツライ痛みを我慢しているかはわかるし、だからこそそんな思いをして守ってくれること、崖っぷちにいた自分をしっかりと立たせてくれたことがどれほどかけがえのないことか、他の誰でもない氷華梨だからこそ実感できることで、彼女の心が翔馬という存在に塗りつぶされていくのが目に見えるかのようなんですよね。
一方で、氷華梨だからこそ翔馬が自分以上にずぶずぶの泥沼の中に居るとわかってしまうから、彼がこれ以上沈んでしまわないように必死なんですよね。自分のことで精一杯で、自分を傷つけることに必死だった少女が、後半になるとその必死さを今度は翔馬に向けるようになるのです。自分を守ろうと、支えようと、押し出そうとした手を必死に捕まえて、顔をくしゃくしゃにしながら自分が上がった岸に引きずりあげようとする。
そう、二人共、お互いを守ろうとすることにとても必死で、余裕なんて一欠片もなくて、懸命なんですよ。その必死さが、全部を捧げるような想いが、とてつもなくかけがえない綺麗で神聖なものに思える。
この二人のそんな関係が、本当に胸を打つんですよ。すごい、好きなカタチだったんですよ。これぞ、純愛だよなあ。
幸せになっちゃいけないのだと思い定めていた二人が、育んでいく小さな幸せ。お互いを許し肯定するささやかな免罪符。
うん、こんなにも幸せになってほしい、と思ってしまったヒロインは久々だなあ。

今回主に描かれたのは翔馬と氷華梨でしたけれど。その他のキャラクター。カナエと天野先輩や、キリカと理音にもそれぞれ能力にまつわる傷があり、それにまつわる物語があり、歴史があり、という感じなので彼らの話も見てみたいし、また未だ現れぬアルカナたちや、今回悪い役回りだった連中にもそれぞれ贖罪するべきナニカがあるんじゃないか、と思うので、これはシリーズ化を期待したい。