戦闘医師 野口英雄 (HJ文庫)

【戦闘医師 野口英雄】 草木うしみつ/黒衛もん HJ文庫

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世界各国で猛威を振るう異形の存在―病魔。そんな病魔を相手に異能で戦う戦闘医師の少年・野口英雄は、アフリカでの大戦中に上層部の命令を無視して片っ端から人々を救った結果、最低ランクへと永久降格させられてしまった。そこで英雄は日本へ戻ると対病魔の新チームを結成!腕は一流だが曲者揃いの仲間たちと共に、再び表舞台へと返り咲く!
なるほどなあ、この「戦闘医師」なる言葉のインパクトを実に上手いこと使っている。
実のところ、本作って医療モノとしての要素は殆ど無いんですよね。病魔、という存在も異形で意思疎通の出来ない怪物に過ぎず、増殖したり病毒を保有している、という病気に似た側面はあるものの、あくまで自然発生して拡散して生き物を冒していく怪物群であり、戦闘医師というのは純粋に戦闘力を以ってこれを殲滅していく存在なわけである。病魔の恐ろしいところは、感染病のパンデミックのごとく増殖と拡散を繰り返していくところであり、病魔ごとに特性があるというところであるのだけれど、これを単なる怪物の侵略と捉えず、致死性と感染性の極めて高い感染症のように扱い、それの感染爆発のように表現しているところが、面白いところなんですよね。そんでもって、その相手を主にする存在を、戦闘医師と……兵士や戦士のような敵を殲滅する存在ではなく、医師として人々を救う存在、それも自分も巻き添えで感染死しかねない中に勇んで飛び込み、死病を治療してまわる最前線で戦う医師と同じような存在、として戦闘医師を扱うことで、物語の雰囲気が単なるバトルものではなく、医療従事者たちの、純粋に人を救いたい、病に苦しむ人たちを助けたい、という誇り高い在り方を前面に押し出したものになっているのである。
これは、アフリカで自身も根絶しようとしていた病に逆に冒されて、現地で亡くなった野口英世をモデルとした人物を主人公としている時点で、作品の方向性を一発で示すことに成功していますしね。
それが、単なるバトル物とひと味違うところ、と言えるんじゃなかろうか。
いや、ホントに医療分野の要素はないにも関わらず、医療の最前線で謎の疾病群に立ち向かう医師たちの戦い、みたいな空気感にうまいこと持ってってるんですよねえ。病魔と戦うこと=人を救うこと、だから戦うことに対する迷いも後ろ暗さもない、真っ直ぐな正義の戦いとして気持よく見れるのである。
人類種に対する殲滅戦争、的な悲壮感はない一方で、人類に致命的なダメージを与えかねない感染病のパンデミックという危機を前にしての切迫感や緊張感は欠かされないわけで、物語のスタイル作りについては見事に成功してるんじゃなかろうか。
WHF(世界保健維持軍)やPMC(プライベート・メディカル・カンパニー)など、世界観を構築するための小道具にしっかり積み上げてますし、狭い地域でちまちまやるような話ではなく、それこそ国境を跨いで世界規模で話が広がっていく物語、というのもスケール感があって良きかな。
組織に逆らって追われたものの、世界各国の心ある戦闘医師たちからは、しっかり認められ敬意を抱かれ、英雄が奔走した現地の国々では文字通り英雄として扱われているなど、決して主人公は蔑ろにされているわけでもないですしねえ。
キャラクターに関しては、もうちょっと浮ついていて腰を据えた方がいいんじゃないかな、と思う面もちらほらあったけれど、これは初回特有のまだキャラが登場したてで落ち着かずにバタバタしている部分であって、シリーズ進んでいくと自然とリズムが整ってくるところなので、あんまり気にせんでいいと思う。この作者さんの書く掛け合いは基本、ノリ良くて楽しいですし、ラブコメのあの騒ぎ方はすごく好みなので、このまま行ってしまって欲しいなあ。
個人的に、会津と長州の連合軍じゃあ、などと言われるとやっぱり燃えてしまうのです、歴史好きとしては。

草木うしみつ作品感想