七日の喰い神 2 (ガガガ文庫)

【七日の喰い神 2】 カミツキレイニー/nauribon ガガガ文庫

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明かされてゆく七日の凄絶なる過去

“六花のマガツカミ”の存在を報せる手紙を受け取った古川七日は、ラティメリアを連れて夏祭りで賑わうとある町を訪れる。手紙の差出人は、戦時中、ともに最前線で戦った女祈祷士の大坂雪生。七日との再会を喜ぶ雪生だったが、初めて見るラティメリアの容姿に驚愕する――「六花さんにそっくり……」。戦場において七日と雪生は、七日の姉・六花を中心に編成された祈祷士部隊に属していたのだった。。六花から生まれたマガツカミの脅威は七日もよく知っているはずなのに、なぜそれを側に置いておくのか? 雪生はラティメリアを斬るよう忠告するが、七日は取り合おうとしない。そんな折、祭りの最中に、古くから生き長らえる強大なマガツガミ・轢き神が現れる。轢き神の暴走を止めるため、その行く手に立ちふさがる七日だったが……。明らかになってゆく七日の過去と、その姉・六花の存在。そして、ラティメリアの誕生秘話。人間とマガツカミの異種コンビが魅せるダークファンタジー第2弾!
あかん、地獄や。ほんまモンの地獄や。六花をリーダーとする祈祷士部隊の最後の戦いは、人間性を全否定されるような地獄のような戦場でのものだった。史実の沖縄戦に相当する末期戦である。敵の戦力はあまりにも圧倒的。攻め寄せるそれは雲霞のごとく。味方の軍からは、軍からはすでに正気は消え失せ、倫理は崩壊し、形骸にしがみつき声高に叫ぶことで絶望から目を背けるしかない有様と成り果てている。敵を殺し、味方に狙われ、操るマガツカミは隙あらば人を喰おうと暴れまわる。周囲には狂気しかなく、それでも仲間と市民たちの命を守るために狂気の淵にしがみつき、素朴な善性を貫こうとした六花に襲いかかる、おぞましい人間の悪意。
六花の末路は、劇的なものでも美しいものでもなく、ただただ惨たらしく救いがなく、尊厳も何もかもを踏みにじられ、心を壊され廃人と化し、戦争犯罪人として遇された挙句に、まともな死体も残らず食い散らかされるというものでした。
その、一部始終を間近で見続けた七日。壊れていく姉を、守れなかった弟。なにも出来ず、姉の心がぼろぼろに崩れていくさまを指を咥えてみているしかなかった彼。彼には、六花しか居なかったのに。彼女だけが、七日にとっての全てだったのに。
六花の遺言が、七日を想って書いた言葉が、もう彼女自身の中からいっぱいになって溢れてしまったみたいな綴りが、切なくてねえ。
本当なら、此処で、姉が自分のマガツカミたちによって千切られ、食いつくされ、惨死した時点で七日という人間は、終わっていたのかもしれません。姉と同じように心を壊し、廃人となるか。それとも、姉の命を奪ったマガツカミたちを追って狩り殺すだけのバケモノと成り果てるか。
そうならなかったのは、彼が姉の死体なき血だまりの中で生まれた、唯一残された歯から生まれた喰い神を見つけてしまったから。生まれたての、何の穢れも帯びていない、姉ソックリの存在に触れてしまったから。
それを知ってしまえば、七日にとってのラティメリアがいったいどれほどの存在なのか、今更ながら染み入るように理解できるのです。あれほど邪険にしながら、憎んでいるようにすら見えるのに、決して離さず傍に置き続けるその複雑な想いの果てを。
七日にとって、ラティメリアは呪いのようなものなのでしょう。同時に、彼を人間のままで居させている唯一の錨なのか。それが救いなのかは、まだ定かではありません。でも、マガツカミとしての本能に逆らい、人の血肉を、友達となった人の命を、食べたくないと泣いた時、人喰いの運命に逆らって七日に助けを求めた時、可能性の光を見たのです。
純粋無垢な、罪なき幼子。無垢であるが故に正邪を解さず、きっとどこまでも残酷になれるであろうカミサマだったラティメリアは、でも他のどのマガツカミよりも六花の想いを受け継いでいた「娘」でもあったのではないでしょうか。彼女が信じた、人の善き部分を……悪意でも絶望でも怒りでも憎しみでもなく、彼女が笑顔で思い描いていたモノを、壊れ砕かれすり潰されで踏み躙られて最期に遺せなかったモノを、ラティメリアだけが引き継いでいた。七日が好きだった、姉の姿をもっとも純粋に顕現させたもの。遺してくれたもの。形見であり、娘であり、彼女自身であるもの。六花が成れなかった、六花の祈り、六花の願いそのものの映し身。
重たいなあ。でも、その重さがなければ、もう七日は生きていけないのだ。
いつか全部終わったあとも、彼がその重さを背負わなくても、生きていけますようにと願うばかり。もしそれが叶うなら、きっとその重さを取り払ってくれるのも、ラティメリアなのでしょう。
雪生は、誰よりもこの悲しい姉弟を間近で見続け、その悪夢を理解し、そして今、ラティメリアというカミサマの心に寄り添った彼女は、ラティメリアに託したみたいですし。七日の、未来を。

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