監獄学校にて門番を (3) (電撃文庫)

【監獄学校にて門番を 3】 古宮九時/やすも 電撃文庫

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学園中が活気づく、クラス替えシーズン。しかし監獄学校は、絶望へと突き落とされた。突如、何者かの手により種族英雄たちが解き放たれ、学園は瞬く間に戦火に包まれる。不死の呪いを持つ種族英雄と戦い、生徒は次々と傷つき、王女であるニアは誘拐されてしまう。そして無情にも、地下最奥に封印された“災厄の巨人”までもが動き出し―。これは勝率0%の、絶望的な戦い。しかし、クレトは過去の因縁を断ち切り、学園を守るために最大の敵に挑む。衝撃の真実が明かされる、興奮最高潮の第三巻!

セーネの思惑って、結局なんだったんでしょうね。多くを語らず、語ってもそこに真実があるかは定かではなく、他者を翻弄し続ける思うがままに振る舞う最悪の魔女。
確かに、今回の騒動を通り越した災禍を引き起こした彼女の言動は、まさに魔女の評判通りであったのだけれど、どうにもね。そのように思われているから、そのように振舞っている、相手がそう見ているから、そう演じている。そんな素振りが伺えるのである。
その相手とは、多分にしてクレトなのだけれど。それでいて、振る舞うは悪い魔女としてのそれで、クレトが信じたいと思っているセーネの芯の部分については、そっぽを向いて殊更に覆い被せて見せようとしない。
本当に、最初から最後まで見せようとはしなかった。
でも、彼女の行動を見てると、どうしたってその動機の中心はいつだってクレトなんですよね。全部が、クレトを核に置いている。クレトのため、クレトのため、全部クレトのため。
前回、彼女がずっと苛立っていたのは、過去に囚われたまま不変にたゆたうことを平穏に感じていたクレトが、現在を生きる生徒たちとの交流で、いつしか未来に思いを馳せるようになってしまったことが原因、だったのだと仮定するなら。
囚われ人たちが微睡む揺り籠の番人だったセーネの、今回の蛮行の理由も何となくわかる気がするのである。
いつしか、変化を期待し、未来を望み、生徒たちと同じように先のことを考えるようになったクレトが、それなのに檻の中から抜け出そうと思わないのだとすれば。外の世界を眺めながら、自分は動かず、生徒たちを檻の中から見送ることを疑いもしていないのだとしたら。
何をどう促しても、この不器用な頑固者の頭が固まったまま容易に動かないのだとしたら。
過去に囚われたまま停止し、変化もなくゆらゆらと揺蕩い続ける不変にして平穏の楽園は、永遠に苦痛が続く監獄と成り果てる。ただ苦しみが、辛さが続くだけの場所になってしまう。
そして、この不器用な男は、その苦しみも痛みも飲み込んで、気づかないふりをしたまま、先へ進んでいく者たちを見送り続けるのだ。
そんな馬鹿げた光景を否定するには、この男が己の本心を偽れないくらいにきっぱりと、どうしようもないくらいに破滅的なまでに、蹴っ飛ばしてやらにゃあなるまいて。
それこそ、檻そのものをぶち壊してしまうほどに。彼らを捉える過去そのものを、叩き潰してしまうくらいに。
荒治療である。多くの者にどれほどの被害が出るかわかったものではない。破綻し破滅し壊乱する国や秩序や社会がどれほど出てしまうか想像もできない。それこそ、平和が喪われ戦乱の世に戻ってしまうかもしれない。彼が望んだ未来そのものを壊してしまうかもしれない。
それでも、魔女は不変たるを維持できなくなったクレトを、そうやって無理矢理に肯定してみせたのだと、思いたい。
結局、何も語らなかった彼女だけれど。その程度の想いを馳せることは許して欲しい。
本当に、魔女については何も何もわからなかった。人形である彼女と、本体である彼女に区別と差異があったのか、という端緒のところから、何もわからなかったのだけれど。
ジリアが手を引き、背中を推し、無言で促し、または言葉を費やして教え諭す、寄り添うヒロインなら、セーネは視界の外からじっと見守り、時々手ひどく蹴っ飛ばしに来る、でももう一人のヒロインだったんだなあ、と今は思う。

過去の檻は盛大に破壊され、それに囚われていた過去の英雄も、現在の生徒たちも、すべて解き放たれ、あとに残されたのは自由にどこまでもいける、心細いくらいに先の見えない未来ばかりだ。
それでも、一緒に歩いていける人が居るならば。胸に秘め地を踏みしめるに足る夢が出来たなら、何も恐れることはない。どこにでも行ける。どこまででも行ける。
それを、この監獄学校の生徒たちは身を持って示してみせ、その証明をクレトはしっかりと受け取ったわけだ。もうクレトは先へ進んでいく彼らを見送るばかりではない。自らも一緒に、進んでいける。

かなり展開を捲くることになったであろう最終巻でしたけれど、きっちりテーマは回収できたんじゃないでしょうか。ルルゥに関しては、これはもうあれですね。百聞は一見に如かず、に尽きるのではないかと。
ジリアはなんだかんだと、美味しいポディションを見事に最後までキープしたなあ。さすがです。
しかし、クレトの本体ってもっと大巨人というイメージだったのですけれど、意外とそんなに大きくなかったなあ。

次の新作は、作者がウェブ上で連載していた作品の中でも屈指の傑作、【Babel】の書籍化ということで。これはもうすんげえ期待しています。古宮九時作品感想