剣魔剣奏剣聖剣舞 (MF文庫J)

【剣魔剣奏剣聖剣舞】 嬉野秋彦/カグユヅ MF文庫J

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神より与えられし不壊の“神剣”とそれを駆る“剣聖”が祖国の威信をかけて戦う戦乱の時代。ラドガヴィガ王国から神剣を強奪した一匹狼の剣聖・リューインは美少女揃いの剣聖集団“絶華十剣”のひとり、ソーロッドの追撃を受ける。ソーロッドを軽くあしらって行方をくらました彼が逃げ込んだのは、王国と敵対するゼゼルク大公国の前線基地。盗んだ神剣をエサに大公国軍の食客となったリューインは、メガネっ娘書記官キリリクを引き連れ、ソーロッドがいる王国軍の要塞へ向かうが…?殺人、傷害、窃盗、脱獄、公然猥褻、覗きにセクハラ、あっちこっちでやりたい放題!?最強剣聖が世界を弄ぶ前代未聞の邪道戦記ファンタジー、堂々開幕!
うわぁ、凄まじく性格が悪い主人公だー。ちょっとえげつないくらい。
嬉野さんの書く主人公って、ズケズケとした物言いのキツイ性格のキャラが多いんだけれど、その人たちってお人好しでは全然ないんだけれど、決して性格が悪いわけじゃあないんですよね、キツイだけで。凄まじくキツイだけで。男女貴賎の区別なくキツイだけで。
ところがこの主人公リューインと来たら……悪い、本当に性格が悪い。嘲弄とせせら笑いがデフォルトみたいなヤツなんですよねえ。人の弱味や瑕疵となる部分を容赦呵責なくあげつらい、攻撃し、バカにして後ろ足で砂をかける。好んでヘイトを集めて回るような輩なのである。でも、言ってる事は往々にして正しくはあるんですよね。言い難いこと、わかっていても直視しがたい事を無神経に暴き立て、突き出し、煽り立てる。間違っていないからこそ、余計に感情を逆撫でするわけですけれど、立場もしがらみもない自由の身だからこその振る舞いでもあるんですよね。そこに、他者の目や評価、好意などかけらも価値を感じていない、という部分もあるのですけれど、これが悪かというとさてどうなんだろう。悪人か、というと断じかねるんですよねえ。
最初、悪人だー、この主人公は悪いやつだー、と思いながら読んでたんですけれど、読んでいるうちに悪党ではあるけれど、自分の欲望に素直なヤツだけれど、残酷で冷酷で人を人とも思わない無頼漢ではあるけれど、邪悪であるか、悪漢であるかというとちょっと違うのかなあ、と思えてきたわけです、思っちゃったんだなあ。
この作者が書いた作品だと、【神咒鏖殺行】という作品で、本物の人非人で極悪非道の外道という主人公を描いているので、それと比べるとリューインの中にあるのは邪な欲望ではなく、誰にも縛られない自由さ、というのが見えてくるわけで、悪人とは違うんじゃないかなあ、と。
それにもう一つ、神剣狩りを行う理由と目的が確固とした彼の生きる指針の中に組み込まれているようで、その中にソーロッドの存在があるようなんですよねえ。全然、彼女の好かれる気もなさそうなのに、どうして彼女を無理やり誓約によって縛り付けてまで、自分の傍に置こうとするのか。
まだこう、神剣や剣聖、国際情勢から人間関係まで、世界観の設定に関してこの一巻に関してはひたすらに広範囲に渡って種を蒔いて蒔いて、といった感じでとかく下ごしらえの回だった印象でした。
主人公のリューインは傍若無人の無法者だし、ヒロインのソーロッドと来たらこれまた、自分の大切な人たちに迷惑を掛けることを理解していながら、なお感情を制御しきれず気持ちに任せて暴走してしまう愚か者ときた。
前作のヒロインのヴァレリアも、急成長を遂げるまでは世間知らずのおバカさんだったけれど結構謙虚なところもあったんですよね。それに比べてこの娘は、バカに輪をかけて愚かだもんなあ。ちゃんと成長できるんだろうか、と心配になるんですけれど、この作者は女の子だろうと容赦なくアカンところはいやというほど叩いて叩いて矯正していく容赦なさがあり、実際ヴァレリアもそうだけれど立派な人間に成長させてるからなあ。そのへんの信頼感は結構あるので、とりあえずソーロッドが自分のダメっぷりをもう勘弁して下さいと想って心折れるまでリューインにイジメ倒されるのを待つとしよう。この主人公、嬉々としてそのへんに短刀突き刺してグリグリ捻ってくる人だし。

しかし、リューインの異名が【笑面飛虎】とか、【破軍明星】。【荊棘万刃】などの呼び名。それに、鉄鎖派など武林の流派が並び立っているあたり、名詞の多くは洋風なんだけれど世界観の様式としてはこれ、完全に「中華武侠」モノなんですよねえ。嬉野さんの武侠モノ、というだけでニヤニヤ笑いがとまらんですよー。
昨今、中華モノだとやっぱり書かせて貰いにくいのかもしれないけれど、じゃあ普通にファンタジーで、と皮を被って中身はがっつり武侠モノをやってくれるってのは、もうなんというか大好きです(笑
このタイトルも、インパクトあるなあ。それでいて、殷が踏んであって覚えやすいし。

嬉野秋彦作品感想