終末なにしてますか? 忙しいですか? 救ってもらっていいですか?#04 (角川スニーカー文庫)

【終末なにしてますか? 忙しいですか? 救ってもらっていいですか? 4】 枯野瑛/ue 角川スニーカー文庫

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妖精兵クトリ・ノタ・セニオリスは消滅し、ヴィレム・クメシュ二位技官は妖精兵ネフレンと共に闇に呑まれた。物語は、終わったはずだった。―しかし。ヴィレムは、見覚えのある部屋で目覚める。
「…おとー、さん?」
語りかけるのは、すでに亡き存在の娘アルマリア。そして、かつての仲間ナヴルテリが伝える真界再想聖歌隊の真実。それは時の彼方に過ぎ去ったはずの終末の光景―。夜闇の中、新たな“獣”が咆哮を上げる。
もう冒頭からナイグラードの号泣に貰い泣きである。目を背けるな、とばかりにつきつけられるクトリの喪失。ヴィレムとネフレンの消失。それでも希望が、喪われていないという希望が、が、がががっがががが。

アルマリア、泣いてないんですよね。悲しみも切なさも喜びも涙としてこぼさずにただ微笑んでいる。もう、この娘は何も求めていないのだ。待って待って待ち続けて幾星霜。あの約束は守られなくても、もう一度ひと目会うことだけを望んで、待ち続けたのだ。
それ以上、彼女は何も求めなかった。ぜんぶ、許してくれるような微笑みは、彼女が最期に浮かべた表情だったのかもしれない。
ヴィレムとネフレンが目の当たりにした世界は、ヴィレムが帰ってこなかったその後の終末世界。世界が滅びる前の一時。幻のようで、夢のようで、実態のない、しかしそこに確かに居る過去。わからぬまま飲まれるならまだ幸せで、これがもう喪われた記憶の世界だと承知しながら、それでもどうしようもなくこの終わってしまっている世界に浸り込んでいくヴィレム。それもまた切ないんですけどね、彼をじっと見守っているネフレンの思いがまた切なくてねえ。
上の世界ではいつだって壊れそうだったヴィレムが、この世界ではあるべき場所に戻ったように儚くなくなっている、放っておいたら壊れそうだったのに、今は放っておいても壊れなさそう、そんな見識を吐露しながらふと彼女がこぼしたセリフが痛切でねえ。
「私ひとりだけで、壊れそうだから」
ついつい、この偽物の世界の主賓であるヴィレムの想いにばかり目を取られていたけれど、完全な異邦人であるネフレンがここでどんな想いを抱いていたのか、その欠片でありながら凄まじい奔流を閉じ込めたような囁きが衝撃的でねえ。思いがけず胸がいっぱいになってしまったんだ。
クトリの代わりじゃないんだけれど、ネフレン、本当に最後の最後までヴィレムを離さなかったんですよね。ずっとずっと、傍らに寄り添い続け、続け尽くした。
ネフレン…レン。この娘は、もう、もうねえ……。
アルマリアの結末については、あの獣の咆哮を聞いた時からもう分かってしまっていたけれど、それでも……待ってたんだなあ。待ち続けてたんだなあ。
それを知った時、ヴィレムの抱いたものは如何程ばかりか。自分がもう、絶対に約束を守れないと理解した時、彼は……。
この最強の準勇者の受けた呪いというのは、それこそ折れることも諦めることも出来ない、ということだったんではなかろうか。だからこそ、出来ることは全部出来るようになってしまった。途中で辞める道もあったろうに、未練がましくずっと続けて続けて、規格内の範疇なのに規格外にはみ出るような最強の領分に陥ってしまった。そんな呪いが、この期に及んでまで彼を前へと進ませている。本当なら見なくて済んだ、人間が滅びる光景を目の当たりにし、その果ての終末を目の当たりにして、前にはもう、何もないのに。クトリも、アルマリアも、もういないのに。
そうして、新たな獣が誕生してしまった。絶望しないってことは、こんなにせつないものなのか。
彼に関してはね、あの冒険者のおねーさんが評した一言が、ガツーンとぶん殴るような威力の真理だったと思う。うわー、って感じだったし。ヴィレム本人も「うわー」となってたけれど。

幾つか、獣誕生の真相やそのきっかけとなる出来事など明らかになったけれど、それ以上にまだわからないことがいくつも出てきてる。あの昏睡するに至った人たちが見た夢。あれは、この結界内だからこそ見た夢なのか、それとも実際人間たちが滅んだ時に起こったことの中でも見られていた夢なのか。

真界再想聖歌隊(トゥルー・ワールド)が掲げていた教義や、星神がこぼしていた言葉がまた気になるんですよね。また、世界の真相の本当の姿はもう一段奥に隠れているようじゃないか。
最後の希望は、一番深い謎であるあの少女か。その言動から、想像はつくものの予想がつかない。どういう仕組で、何がどう動こうとしているのかさっぱりとわからない。
わからないけれど、わからないからこそ、その子が。クトリの中に居た、或いはクトリの枠組みとなったその子が、本当に最後の希望なのだと、そう信じるしかないじゃないか。

しかし、毎度ながら秀逸さに唸らされるのが挿絵である。大胆に、貪欲に見開きで描かれるワンシーン。2ページを使った広々とした挿絵だからこそ、そこにありったけの情感がつめ込まれている。本当にワンシーンを切り取ったような絵に、思わず目を釘付けにされて、心が揺さぶられる。まさにこの物語の世界観に確かな色彩を、あの切ない空気感をもたらしている一助なのが、このueさんのイラストなんですよねえ。ぶっちゃけ、まずもって表紙からして必殺ですし。

シリーズ感想