フルメタル・パニック! アナザー (12) (ファンタジア文庫)

【フルメタル・パニック! アナザー 12】 大黒尚人/四季童子 富士見ファンタジア文庫

Amazon
Kindle B☆W

“カエサル”覚醒―魂なき戦闘機械の振るう強大かつ未知なる『力』を前に、達哉たちD.O.M.S.はかつてない窮地に追いこまれる。さらに冷たく無機質なその視線は、戦場である中央アジアのみならず、遠く離れた東京を見ていた。思いがけぬ破局、拡大する戦火、傷つき消えゆく人々。故郷の危機を前に、若者たちはそれぞれの決断を迫られる。そして己の命を燃やし尽くした苦闘の果て、達哉とアデリーナが見出した答えとは―?空前絶後のSFミリタリーアクション、最終決戦!!
終わった。終わったなあ。達哉の銃を手にした戦いは、ASに乗った戦いはここに終わりを見出したわけだ。
思えば、この達哉という主人公、なんで戦っていたのかわからないままだったんですよねえ。その操縦技術を見出されてスカウトされて、何となく成り行きでASに乗るようになり、あれよあれとという間に本物の戦場に立つようになり、人の生き死にを目の当たりにして硝煙の匂いを纏うようになってしまった。
元の平和な世界に戻るに戻れず、戻ってもどこか馴染めず、居場所をなくしてしまっているうちに、薄汚い謀略によって存亡の危機に立たされたD.O.M.S.の仲間たちを守るために戦うようになり、ついには自分のパーソナルデータを利用した新兵器の拡散に対して、オリジナルとしてケリをつけるために戦うようになり、とそれなりに戦う理由を抱えつつも……彼にとってそれはどれも受け身な姿勢でいるところに降って湧いた理由だったんですよね。もちろん、彼は選択し続けたし、ぜんぶ彼自身が戦いと決めたことであるし、意地と決意がそこにはあった。
でも、不思議と……ずっと彼の足は地についていなかったような気がする。どうしても、ふわふわしたままだったのだ。別に、理由もなく兵士として生計を立てている人も多いだろう。性にあうからとか何となくで、血なまぐさい仕事を続けている人もいるはずだ。彼らがそうしているのは、戦うための信念があるわけでもないし、流された結果とか、受け身でいつづけた結果としてでしかない。どっぷりと戦争に肩まで浸って抜け出せなくなっている、という人だけでもないはずだ。その気になれば、簡単に足を洗える程度の軽やかさで携わっている人も、珍しくはないだろう。
でも、そんな人達ですら達哉に比べると、地に足がついてたんですよね。単なる仕事、という割り切りですらどっしりと腰を据えているようにみえるほどに、達哉という少年の戦う理由には定まったものがなかったように見えたのだ。
だから、ずっと不思議だったし、彼の戦いを見ているのは随分と奇妙な感触だった。なぜ、あんな思いをしてまで、実際に人を自らの手で殺すような経験をするに至るまで、彼は戦う必要があったのだろうか、と。
多分、彼にも最後まで本当のところはわからなかったのかもしれない。それでも、彼の戦いとASを降りる決断をするに至るまでの姿を追ってみると、何となく納得できるものは見いだせた気がするんですよね。
落とし前をつけるだの、振りかかる火の粉を払いのけるだの、色んな決着をつける必要はあったにせよ、だ。達哉にとって、最初から最後まで一貫してブレなかったのは。最初から最後まで、彼にとっての戦う理由、戦場に身を置かなければならなかった理由の最大のモノは、アデリーナ以外のナニモノでもなかったんだろうなあ。
結局のところ、最初から彼女に魅入られた達哉にとって、彼女に手を届かせるには彼女のいる場所に行くしかなかったわけだ。戦場だの何だの、というのは達哉にとってはどうでもよい、というと語弊があるかもしれないけれど、周りや自分が思っているほどには、戦場と平和な日常の差異に戸惑うとかは関係なかったのかもしれない。彼女がいる場所が、彼にとって自分が居るべき場所になってしまっていたのだ。
同時に、自分が座り込んでいた絶壁の上に這い上がってきた達哉の存在に、リーナ自身も大きく揺り動かされることになる。様々な事件や出来事を共有し、感情を交換し、経験を繋ぎ合うことで、二人は価値観を同じくしている。それは、リーナにとっては戦場やそれに近しい場所にしか居場所がなかった、そこから動くことが出来なかった彼女に、達哉のいる場所が自分の居場所、という座りの良さを得るのに必要な過程だったんでしょうね。
二人にとって、何よりも大事なのがお互いが一緒にいるところ、となった時、別段それが戦場だろうと平和な工事現場だろうと、関係なくなっていたのでしょう。
その上で、達哉もリーナも、戦場においてやっておかなければならないケリは、カエサルの一件を通じて全部やり終えてしまったわけだ。別に、好んで戦っていたわけでもない彼らにとって、もうそこは何の未練もない場所になっていた。一方で、達哉には自分の生家とその生業である工務店の仕事や生活には、まだまだ思い馳せるものがある。
一度は帰るに帰れず、帰っても落ち着かずにD.O.M.S.に戻った達哉が今回すんなりと、ASから降りることを選んだのも、リーナが未練もなく達哉が誘った手を取って彼の世界に降りてきたのも、こうしてみると何の不思議もないんですよね。
これは、巡り巡っては達哉とリーナの二人のスモールワールドに集約される物語だったんだろうなあ。
だからこそ、菊乃は彼らにはついていけなかったし、同じ世界を股にかけたASアクションものだったにも関わらず、本家フルメタとはちょっと毛色の違う、あまりスケール感を感じさせないこじんまりとした作品になったんんだろうかなあ、なんて思うわけだ。

残念だなあ、と思うのは本家フルメタとのコラボレーションみたいなものがかなり少なかったことでしょうか。クルツとマオ姐が出てるくらいで、キャラにしても組織にしてもフルメタ本家から絡んでくるようなネタはかなり少なかったですし、あの人達は今、みたいな話も殆どなかったですしねえ。そっち方面で楽しませてくれるネタがあんまりなかったのは、勿体無かった。
なんにせよ、結局12巻に及ぶ大長編を仕立てあげ、それにこうして決着をつけてみせたのですから、大したものです。お疲れ様でした。

シリーズ感想