戦うパン屋と機械じかけの看板娘〈オートマタンウェイトレス〉4 (HJ文庫)

【戦うパン屋と機械じかけの看板娘〈オートマタンウェイトレス〉 4】 SOW/ザザ HJ文庫

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感謝祭用のお菓子作りを依頼されたルートだが店の仕事も増え、疲労もピークに達していた。そんな中、親衛隊のヒルデガルドと「人狼」と呼ばれる工作員がルートの命を狙いオーガンベルツに現れる。
スヴェンがあっさりヒルダの変装を見破り、2人を捕えることが出来たが、「人狼」にルートがかけた言葉は「あんた、パンは焼けるかい?」だった。
ぐああ、効いた。全然予想だにしていなかった展開に、これは見事にテンプルぶち抜かれた。
油断を突かれた、と言ってしまうとそれまでなんだけれど、この読者側の油断を誘う構成が絶妙なんですよ。このシリーズ三巻に渡って重ねられたイメージという観念を見事に利用された、いや既刊だけではなくこの4巻中だって親衛隊のヒルダという少女の最悪に近かった印象をひっくり返す再生と成長の物語が完璧に近い出来栄えだったからこそ、この【戦うパン屋と機械じかけの看板娘】という作品が構築する「枠」を勝手に決めつけてしまっていたわけだ。なんという巧妙なお膳立て。
「伍長」の正体だって、そりゃもうイイようにミスリードされてしまっていましたよ。全然気づいていなかったし、同時進行していたソフィアが居る開発局の襲撃事件の方とのリンクもまさかのカラクリだったからなあ。
そもそも、本作のラスボスたる存在からして、そりゃもう胡散臭くて怪しくてマッドでサイコなダイアン博士がどうやったって怪しかったわけで。そりゃ、この人ソフィアさんにご執心だし、何だかんだとスヴェンやルートたちの都合に合う暗躍をしてくれてましたけれど、あくまで当人の好奇心や欲望優先で、どうやったって味方になってくれるような人ではなかったわけで、何だかんだと結局最後にはこのダイアンが障害になるものだと思っていたのですが。
うむむ、こうしてみると今までこの物語を読んでいて、こういうモノだと思い込んでいた勝手に決めつけていたものを、片っ端から一から十まで見事に土台からひっくり返されてしまったんじゃなかろうか。
いやもう、お見事としか言いようが無い。
何より、ありふれた悲しい無慈悲な出来事の一つとしか思っていなかった開発局の、ソフィアの傍で起きた悲劇が……まさか、こんな風に繋がっているなんて。ハイドリヒの一言にいったいどれだけ愕然とさせられたか。
一つ一つだけ取り上げても、無情な結末としか言いようが無いのに、それをつなげてしまってより惨たらしい事実をあからさまにする、この構成。二人が再会できる可能性があったことが、ハッピーエンドとなる筋道がじつは合ったことが同時に知らしめられることで、余計に威力を増してるんですよね、これ。
もうなんか、うわぁぁ、ってなりましたよ。きっついなあ。

三巻でのやりたい放題で印象最悪だったヒルダが、彼女がそうなった人格形成の過程である過去の出来事と、現状の彼女を支えるもの。それを揺さぶり彼女が必死にまとって鎧っていたものをふるい落として本当のヒルダを剥き出しにしていく、少女の再生の物語。そして、自分もまたそんな彼女の変化に揺さぶられ、人間のような心を育てていくスヴェンの成長の物語。この優しいハートフルなストーリーが本当に完璧でねえ……。
それを自分から盛大に巨大ハンマーでふっ飛ばして粉々にしてみせる作者の豪腕さ、好きだわー。愛おしいからこそ、思わず千尋の谷に突き落としてしまう悦楽。そこから這い上がってくると信頼しているからこそ、そのキャラクターたちを徹底的に蹴り落とすこの偏愛。これぞ作家の業であり、物語をよりビンビンに漲ったものにしてくれる贄なわけで、ここからの盛り返しに関してはもう確信の領域である。
かなりダメージ喰らいましたが、この大転換には次巻にかぶりつくより他ありません。

シリーズ感想