ガーリー・エアフォース (4) (電撃文庫)

【ガーリー・エアフォース 4】 夏海公司/遠坂あさぎ 電撃文庫

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変態機動で一部マニアに大人気、Su-47・ベルクトのアニマが登場! 日本に亡命してきたベルクトは、記憶を失い、なぜ飛んでいたのかも分からない状態だった。 そんな彼女はしかし健気で素直で働き者で、基地内でも注目の的になる。お姉さん風を吹かせるグリペンにもだんだんと懐いていく。 一方、ときを同じくしてザイ襲来の激しさが増していく。未知の新型戦闘機も出現し、戦いはかつて無い大規模空戦へと発展する!

ベルクトかー。エースコンバットに親しんだ身からすると、実戦配備された機体みたいな感覚になっちゃうんだけれど、実際は計画破棄されちゃってるんですよねえ。ただ、実機が航空ショーなんかでよく飛んでるんで、知名度は高いんじゃないかと。
しかし、重ねてベルクトかー。ロシア機でこれを引っ張りだしてくるか、という所なんだけれど、敢えてベルクトを出しながら、それを戦うための戦力として物語に組み込んでこない点にこそ注目すべきなんだろうなあ。それどころか、彼女の存在はある意味グリペンと慧の関係の鏡であり、対比であり、未来であるわけだ。同時に、この世界最大の謎であるザイの正体、その核心に図らずも近づくための鍵でもあったんですよね。
ザイの正体とその目的、そしてアニマという存在がどうして生まれたのか、という点は思っていた以上にこの作品の核となる部分だというのがわかってきた気がする。ザイとの戦いというのは、物語の表看板ではあっても本質ではないのか。ぶっちゃけ、ザイが本気で進行してきた場合、人類側に対抗の余地はほとんどないんじゃないか、というのは今回のベルクトの一件で薄々見えてきているわけだし。
もし、ラストミッションのような状況があのベルクトに付与された特性抜きで発生した場合、対処のしようがないということですもんねえ。
だからこそ、問題はザイの正体と目的にある。そしておそらく、グリペンこそがそれに一番近く、或いは既に正解を知っている可能性すらある。彼女自身、意識してその情報にアクセスできないとしても。
それが、前回のライノの裏切りと、今回ベルクトとその開発者が至った領域に関するあれこれで定まったんじゃないだろうか。
問題は、日本におけるアニマの第一人者である八代通さんが、この件についてどこまで理解しているのか、そもそも推論を持っているのか、なんだよなあ。いや、ライノがなぜああなってしまったのか、ベルクトの特性がどうやって付与されたのか、という点を八代通さんがスルーしているはずがないし、ベルクトの記憶領域へのアプローチの理論なんかからしても、踏み込んではいるんだろうけれど、一番ダイレクトなところで実感しているのはやはり慧である以上、彼に主人公として期待されている、或いは用意されている仕事、役割というのは結局のところパイロットなんかじゃないんですよね。
それを、彼自身どこまで自覚しはじめているのか。そろそろ、どうしてグリペンに自分が乗っているのか、という点について、そうしないとグリペンが飛べないから、という観点じゃなく、飛べないグリペンがどうして自分が一緒に乗ることによって飛べるのか、をリソースの配分じゃない「アニマとは何なのか」という部分で能動的に考え始めないといけない時期に来てるんじゃなかろうか。ライノとベルクト、この両者との出会いと別れはそのきっかけとして十分なはず。

ともあれ、今回は最初から最後までベルクトの物語だったなあ。ベルクト(イヌワシ)の民話に基づいたような、切なくも美しい物語。そして、最初から最後まで見送るしかなかった物語。慧たちは彼女を救おうとして、実際彼女はそれで救われたんだろうけれど、もう慧たちと出会った時は彼女の物語は終わっていたとも言えるんですよね。だからこそ、彼女はあんなにも儚く遠く、手が届かなかった。
最後の光景は、きっと映像で見たら胸が締め付けられそうなほど、美しい情景だったんだろうなあ、と。
そして、彼女の終わっていた物語は、慧たちにとっては未来をたどる可能性を示してくれた。それを、彼らはどれだけしっかりと掴むことが出来るんだろう。

しかし、こうしてみるとファントムは憎まれ役買ってますねえ。他に厳しい正論を言える人がいないからで、彼女自身そういうスタンスを貫いているからだけれど、ポロッとこぼす乙女な本音に彼女の思うところ、自分だって、と思ってるような部分が垣間見えて、この娘の人間味とそれゆえに苦労を抱えてるなあ、という側面を感じて好きになってしまいます。

シリーズ感想