異世界拷問姫 (MF文庫J)

【異世界拷問姫】 綾里けいし/鵜飼沙樹 MF文庫J

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「我が名は『拷問姫』エリザベート・レ・ファニュ。誇り高き狼にして卑しき牝豚である」
死後、異世界転生した瀬名櫂人の前に現れたのは絶世の美少女・エリザベート。彼女は『拷問姫』を名乗り、従者として自分に仕えるよう櫂人に命じるが――「断る」即答する櫂人にエリザベートは『拷問』か『執事』かの二択を突き付ける。あえなく陥落した櫂人はエリザベートの身の回りの世話をすることになり、咎人たる『拷問姫』の使命――14階級の悪魔とその契約者の討伐に付き合わされることになるが……!? 「あぁ、そうだ。余は狼のように孤独に、牝豚のように哀れに死ぬ。たった一人でだ」綾里けいし×鵜飼沙樹! 最強タッグが放つ異世界ダークファンタジーの最高峰!

これは異世界違う! 異界や!!
いやまじで、異世界観が他と違いすぎる。それよりも、綾里けいし作品で度々邂逅することになる「異界」と呼んだ方がよっぽどしっくりとくる世界であるこれ。
なにより、作中における内臓率が高すぎる。腸率が高すぎる。残虐劇(グランギニョル)たる作品は決して珍しくはないけれど、それはどちらかというと鮮血の血塗れ的なそれで、そう血の赤なのである。液体としての赤なのである。鮮烈な赤なのである。
それに対して、本作ときたら敷き詰められるように内臓の赤。壁に手を付けばブニョブニョと腸のような感触で、天井からは腐肉がポタポタと肉汁を垂らしてきそうな、そんな四方が人間を解体して引きずりだした中身で組み立てられたような世界なのである。
だから言う。これは異世界違う! 異界や!!

そんな気が狂いそうな世界に、呼びだされた少年瀬名櫂人。彼が死んだ理由はトラックに轢かれたなんて優しいものではなく、肉親である父親に虐待され、踏み躙られ、人として扱われずゴミとして甚振り尽くされたあとに、無造作に放り捨てるようにして踏み潰される、というその生に喜びもなく尊厳もなく誇りもなく、何もないまま殺された無残極まる死であった。故にこそ、何もなかったからこそ彼は罪なき無垢な魂として呼び出され、人形の体に取り憑かされる。
死んだあとに呼び出された世界が、こんなおぞましくグロテスクで死臭しかしない世界だなんて、普通に地獄におちたと勘違いしても不思議ではないだろう。
ところが、そこで彼を呼び出した自らを拷問姫、誇り高き狼にして卑しき雌豚であると名乗る少女に、彼は魅了されていく。その生き様、その死に様に惹かれていった、と言っていいのかもしれない。
自らの領地の領民たちを拷問によってすべて責め殺し、根絶やしにしたという人類最悪の乙女。世界に潜む十四の悪魔をことごとく殺戮した末に、自らも火刑に処せられて死ぬことを高らかに謳う少女。
たった一人で死ぬことを、心から望む姫。
そんな彼女の戦いと、その果てに待つだろう孤独な死を、最後まで見届けようと思い定めた少年の心はいったいどんなものなんだろう。虐げられ続けた側である少年が、一時駆られた魂を燃焼させるような復讐心を休めてなお、彼女を最後まで見届けようと思った心の置き所はどこなのだろう。
ヒナ、という全肯定者に救われた部分もあるのだろう。凄惨すぎるこの異世界での経験が、かつての前世の恐怖を結果として拭い去ってくれた、どれほどつまらない事だったのかに気付かされたというのもあるのだろう。
それでも、この無垢で歪んだ櫂人という子の魂を捉えて離さなくなったのは、拷問姫その人なのだ。
彼女は微塵も救われることを望んでいない。そして、今のところ彼もまた彼女を救おうとは思っていない。ただ、見届けるのみだ。
彼女の生き様は、贖罪のそれなのか。それとも犠牲を糧にした救済なのか。いずれにしても、人は拷問によって与えられる苦痛の凄まじさを知らないと同時に、欠片も望まぬ拷問を、何の罪もないと知っている無辜の民に掛けて責殺す側の苦しみも知らない。
この物語に、通り一遍のハッピーエンドは訪れないかもしれない。拷問姫は、彼女の望むとおりに救われないまま焼き殺されるのだろう。それでも、孤独に、哀れに死ぬことだけは、ないと信じたい。それぐらいは、願いたい。

綾里けいし作品感想