呪術法律家ミカヤ (ダッシュエックス文庫)

【呪術法律家ミカヤ】 大桑康博/テルミン ダッシュエックス文庫

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十七歳で呪術法律家の資格を取った天才少女ミカヤ。そんな彼女の初仕事は史上最悪の暗殺者、アイスフェルドの弁護だった。絶対に精霊呪術を通さない“精霊殺しの箱”。その密室の中で死んでいた人権活動家サラサンテ。彼を殺した容疑で捕まったアイスフェルドだが、ミカヤには冤罪を主張するのだった。初めは半信半疑のミカヤだったが、調査を進める内に暗躍する巨大組織の存在が明らかとなり事態は思わぬ方向へと進む。そして、法律家と暗殺者という相容れない二人は国中を揺るがすある真実へと辿り着くのだった…。かくして迎える大陸史上最大の法廷劇。アイスフェルドへの判決が下される時が来る―!!
自分の信念に殉じる、という人を描くのはなかなか難しいと思うのだ。下手をすると意固地のただの頑固者になってしまうし、度が過ぎれば狂信者じみたキャラクターになってしまう。周りを見ずに暴走する困ったちゃんにもなれば、人の話を聞かずに結論にしがみつく迷惑な人にもなるだろう。
譲れないものを抱え込む、というのは対立軸を作りだしてしまうものだから、どうしたって争いは起こってしまうものなのだ。
その意味では、彼女……この物語の主人公であるミカヤのそれは、泥と苦渋に塗れてなお譲れない、譲らないと見定めた、決意の信念なのである。自らの大切なものを折り、背を向けて、罪を犯してなおそれでも貫くと決断した信念なのである。
考えなしに武器として振り回す武器としての棒きれではなく、自らを飾って見せるための装いでもない、こう生きるのだと決めた、生き様なのだ。
だからこそ、カッコいい。だからこそ、惚れ惚れとする。
逃げ出そうと思えばいつでも逃げ出せた暗殺者アイスフェルドが、どうしてこの裁判に付き合い続けたのか。彼女を見ていたかったからだ。彼女の生き様を、見届けたかったからだ。彼女が信念を貫く様が、見ていて心躍るものだったからだ。輝く魂ほど、見ていて心浮き立つものはない。
だからこそ、彼は容疑者であり被弁護人という立場でありながら、常に真実を語り、自分に不利となる証言も厭わず、からかい混じりにだが公平に発言し続ける。
さあ、真実を明らかにしてみせろ、と自らの弁護人を挑発しながらだ。
その挑発に、或いは挑戦に、彼女は真っ向から挑むのだ。実に、良い主人公である。
そして面白いことに、この物語は真犯人とミカヤの対決ではなく、おおよそ弁護士であるミカヤと容疑者であるアイスフェルドとの対決であった、と言えるのかもしれない。

肝心の裁判パートだけれど、ファンタジー世界という要素を加味しつつ、これがまたかなりしっかり出来てるんですよね。この手の裁判モノはライトノベルでもいくつか出てますけれど、その中でも質実剛健に出来上がっている部類なんじゃないでしょうか。検事サイドとの駆け引きや証拠・証人集め。真実を求めて、危険も顧みず家中へと踏み込んでいく果敢な行動。そして、虫食い状態の証拠を繋いで、真実を見出していく推理パート、と丁寧に積み上げてってるんですよね。
ファンタジー要素についても、荒唐無稽ではなく、きちんと説明して論理だてて証拠の中に組み込んでいますし。偶然、事件の折に真犯人に辿り着く証拠となり得る出来事が起こっていた、なんて展開はまあミステリーでは珍しくもないので、これは突っ込むほどのことでもないでしょう。
瑕疵を感じたところがあるとすれば、けっこう無造作に人が死にすぎてるんじゃないかなあ、というところですか。たった一人の殺人事件の裁判にも関わらず、ちょっと無造作な余計な死人が多すぎたような。危険度高すぎですよー、これ。

これ一巻で完結していて、なかなか続きを出すのは難しそうな展開でしたが……いや、無理やりアイスフェルドを絡めなければ、普通に別の事件での裁判にすればいいから、続けようと思えば全然続けられるのか。
誰かに寄りかからないとダメなヒロインではなく、決然と自分で立って戦える女性が主人公ということで、なかなか見応えのある裁判ものでした。善哉。