血翼王亡命譚 (1) ―祈刀のアルナ― (電撃文庫)

【血翼王亡命譚 1.祈刀のアルナ】 新八角/吟 電撃文庫

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[私は駄目な王女だからね。自分のために命を使いたいの]

――この日、赤燕の国(レポルガ)の国史には第百三十二代王位継承者アルナリス=カイ=ベルヘスと、その護舞官ユウファ=ガルーテンが失踪したと記された。
だが、それは嘘だと俺は知っている。太陽を祀る五日間、彼女は王族の在り方に抗い、その想いを尽くしただけだった……。

突如国を追われた王女アルナ。刀を振るうしか能のない護衛剣士ユウファ。猫の血を身に宿した放浪娘イルナ。人語を解する燕のスゥと、軍犬のベオル。
森と獣に彩られた赤燕の国を、奇妙な顔ぶれで旅することになった一行。
予期せぬ策謀と逃走の果て、国を揺るがす真実を前にして彼らが胸に宿した祈りとは――。

これは歴史の影に消えた、儚き恋の亡命譚。
なるほどなあ。昨今、なかなかこれだけ独特独自の世界観を造りこんでいる作品が少ないだけに、その幻想的な、或いは雅な、とでも言うような物語世界にはやはりインパクトがある。この種の神話と人間の歴史の間にあるような時代感、御伽話・童話的要素を醸すファンタジーって、今あるライトノベルレーベルではまず出てこないタイプですもんね。この種の作品が出てくるというのは、さすがは電撃文庫なのだろう。むしろ、電撃文庫をして最近は少ないと考えるべきかもしれないが。
まあ近年は「メディアワークス文庫」の方にこの手のは流れていっているし、この手の空気感を備える濃密なファンタジーなら「C★NOVELSファンタジア」が本流なんで、仕方ないっちゃ仕方ないのだが。
ただ本作は……まだ世界観の設定が設定として若干浮いたままなカンジがするんですよね。その世界を構成する根幹として根付き切っていない。設定が背景に馴染みきっていないのがまだまだ作りこみが足りていない気がする。儀式、風習、慣例、その国の一般常識から様々な物事に関する歴史的背景。世界観こそが、作品の武器である以上、これに妥協してはいけないのだ。もっとも、妥協してるような甘さがあるわけじゃないんだけれど、そうだなあ……まず国の歴史や在り方があって、それが原因となってアルナたち登場人物の人生が翻弄される、というよりも、アルナたちの人生が翻弄され苦悩させるために祭事や国の在り方が用意された、かのようなある種の軽さ、座りの悪さをちと感じてしまったんですよね。プロットの立て方の順番としてはまったく間違っていないのだけれど、それを読んでる段階で感じてしまうとアルナたちの生き様の必死さにお膳立てという無粋な感覚が割り込んでしまうわけで、世界観の重厚さと奥行きこそが武器であり基礎であり、その前提となる部分こそが登場人物たちの情緒により鮮やかさをもたらす作品だからこそ、基礎土台にきちっとハマっていない浮いたような隙間があるような感覚を感じてしまう、というのはなかなか厳しいものがあるんですよね。
なまじ、その設定群が歯ごたえ十分に作りこまれ、練り上げようという意欲が注ぎ込まれているからこそ、余計に浮き彫りを感じてしまう、という皮肉があるのかもしれない。
まあこれは、書き続けていけば馴染んでいく部分でもあるので、最初故の「浮き」なのかもしれません。
気になる点は、むしろアルナとユウファに焦点を当てすぎて、アルナ王女が抱えていた問題や周辺の登場人物たちの背景的なものが描かれておらず、終盤になって急にそれぞれが抱え込んでいた人間関係の相剋や心の闇なんかが明らかにされて、しかもそれが物語の核心的な部分を担っていた為に、かなり唐突感があったところなのでしょう。ユウファにとって、幼いころのアルナと培った関係とその時に定めた目的以外は眼中になく、主に彼の視点で物語が進んでしまったために、アルナやその他の人たちのことについて深い部分で無頓着であったがゆえに、終盤でめまぐるしいことになってしまった、という事があるのでしょうけれど、肝心のアルナについてすら、あそこまで無知で理解出来ていなかったとなると……いや、悲恋モノとしてはすれ違い自体は悪くないのですが、結局最後までユウファはアルナの闇も覚悟も決心にも気づかないまま、常に彼女に先を行かれ、追いつけないまま置いてけぼりにされてしまったわけですから、悲恋の相方として役者不足もいいところだったんですよね、結果的に。師匠との話にしても、全部終わってしまってからようやく理解も事情も追いついているようなものなので、ユウファにとってのケリではなく師匠にとってのケリをつけるだけしか出来なかった。主人公としては、あまりにも無力で悔しい結末だったと言えるんじゃないでしょうか。
物語的にはここで終わるほうがしっくり来る気がするのですが、シリーズナンバーついてるんですよね。ということは、このまま続くことになるのか。全部取り返しがつかなくなってから、ユウファの物語は今ようやくはじまった……いや、果たしてスタート地点に立てたのかすらまだ怪しいか。