絵本作家・百灯瀬七姫のおとぎ事件ノート (宝島社文庫)

【絵本作家・百灯瀬七姫のおとぎ事件ノート】 喜多南 宝島社文庫

Amazon

クラス委員である園川智三は、5月に入っても不登校を続ける級友・百灯瀬七姫の家を訪れる。彼を迎えたのは、どこか浮き世離れした雰囲気の小柄な少女だった。彼女が「何者」なのか言い当てられれば、学校に出てきてくれると言うのだが…。絵本作家で童話マニアの不思議少女と、彼女に振り回されるおせっかいな少年が織りなす、メルヘンとメンヘルがいっぱい詰まった青春ミステリー!
これはまた、実にミステリーらしいどんでん返しをやってくれましたなあ。
童話をモチーフ、或いは見立てとして用いる作品としてはやはり有名なのは甲田学人さんのホラー【断章のグリム】シリーズや【時槻風乃と黒い童話の夜】がありますけれど、本作も童話の上っ面だけを似せて描くのではない、一歩踏み込んだ形で童話の登場人物の行動原理や原典のモチーフなどに切り込み、それらを身近で起こる出来事や見えにくかった関係者の内面を当てはめて、浮き彫りにしていくというスタイルを取っていて、それぞれ短編ながら童話と現実を深く絡ませて切り込んでいるので、読み応えのある話が多く面白かった。
主人公自体、周りから面白みのないつまらない人物と言われるような、真面目が取り柄の少々周りから浮いてしまうタイプの子で、頼まれると断らないところなんざイイように使われるか、ウザがられる系なんだろうなあとは思うんだけれど、周囲の目を気にするよりも自分がやると決めた事はどんなにウザがられようが毛嫌いされようがやり通す、という姿勢は……いい風に捉えれば信念があると言えるんだけれど、場合によってはヤバイことになりそうな気がしないでもないんだが、当人別に頑迷でも視野が狭いわけでも察しが悪いわけでもないので、酷いことにはならないか。
でもまあ、あの嫌がられても踏み込むと決めたら踏み込む姿勢は、嫌われた時にはとことん嫌われるんだよなあ。そして、一方で並の人では近づけない領域まで突っ込んでしまえる、ということでもある。救いを求めることもせず、荊棘で覆われた城の中に引きこもる姫のもとへだって、無神経にたどり着ける。
相性、或いはタイミング、事によっては運命の糸、とでも言うのかもしれない。偶然でもあるが、会うべくして会った二人だったのだろう。ともかく、最初の出会いの時に起こった事件のとき、確かにトモゾーは彼女に人生そのものを救われた、とも言える。だからこその、執着だったのだろう。
学園ミステリーって、本当に日常の中の些細なミステリーを解き明かしていくものもあれば、何気に人間の闇に振れるようなどす黒い話を容易に持ち込んでくるジャンルでもあるのですけれど、この作品はわりと後者寄りであり、だからこそ本来足を取られて進めなくなるような泥沼の真実を、ガシガシと突き進んだ彼の面白味のなさは、なかなかに味があると思うのだ。
トモゾー心の俳句である。……キラキラネーム並に現代ではキツイ名前じゃないだろうか、これ。
ラストの展開は、完全に意表を突かれた。その発想は頭になかっただけに、これは見事に騙された、と言っていいでしょう。まず最初の最初から刷り込みのごとくミスリードが仕込んであった、ということだもんなあ。