ダンジョン・サーベイヤー 遺跡の街の“人間嫌い

【ダンジョン・サーベイヤー 遺跡の街の“人間嫌い"】 嬉野秋彦/irua ファミ通文庫

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太古の魔導文明が眠る遺跡の街。そこへ向かっていたニコルは、山賊に襲われていたところを赤毛の少年に救われる。しかもその少年クローはトップクラスと名高い調査隊“人間嫌い”を率いる凄腕の“調査鑑定士”で、ニコルは埋文局の命により、彼のチームにその身を預けることに!個性的な三人の少女に続く仲間を求めていたクローは、ニコルの力を試すべく“キーンホルツの闇”へ挑む―!広大な迷宮都市を舞台に贈るダンジョンクロールファンタジー!
相変わらずキャラ濃いなあ。男一人に女性三人というチーム編成、しかもそのうちの一人は主人公のクローに好き好き光線出しまくってる、という状況にも関わらず、チーム内に色気の欠片もない!! まったくない!! 件のクロー好きのラムからして、凄まじい残念臭でチームの娘らにヒロインらしさがもう微塵もないという。キーンホルツギルド幹部の獣人の美女二人、といいビジュアル的に美しい女性陣は多いにも関わらず、ヒロインらしいのが全然いないんだよなあ(褒め言葉)。
一番少女らしさが強く、女子力高めで乙女全開しているのがアラフォーならぬアラフィフの支部長なのが、なんともはや。すごい!! いや、マジで可愛いんですよ、直接描写としてはチラッとしか出てないんですけれどw
【彼女は戦争妖精】や【黒鋼の魔紋修復士】では他のライトノベルからは一線を画した主人公観を見せてくれた嬉野さんですけれど、本作のクローも伊織くんやディーのように尖りまくってはいないものの、クレバー極まる食わせ者のしたたか者で、実にイイ性格してるんですよね。
サブタイトルの人間嫌いが誤解を招きそうだけれど、クロー含めてチームのメンバー、別に人間が嫌いという屈折したキャラクターではありません。むしろ屈折しすぎてる問題児集団なおかげで、周りの人間から敬遠され気味なおかげで人間嫌い、と呼ばれてるようなもので、別にわざわざ自分から壁を作ったり孤立したり他者を拒絶したりという思春期拗らせたような若い繊細な連中じゃあないんですよねえ。
むしろ、酸いも甘いも噛み分けすぎだよなあ、という。まあ異様に沸点が低くなるポイントを抱えてる娘もいるので、決して「出来た」人たちではないのですが、でも初心者同然のニコルくんへの、厳しいけれど案外突き放さない態度なんかは、実にプロフェッショナルらしい。
彼らの仲間づきあいというのも、ベタベタしたものではなくかなりサバサバとしたプロらしい「割り切り」が感じられるものなのですが、ちょっと面倒くさそうなラムは別として、他の二人とクローの関係なんかサバサバとしているからこそ、程よい距離感が居心地の良さをそれぞれに抱かせているようで、わりと仲良い感じなのは面白いなあ、と。
どうも、この人間関係はシリーズ進んでいくに連れて、色々と変わってくるようなのでその意味でも楽しみ。これまでのシリーズでも、最初期の関係がシリーズ終わってみるとまるで違うところに着地して激変していた、ということも多いので、このヘンテコチームがどう変わっていくのか、予想もつかずかなり興味深い。前作なんて、見たこともないくらい主人公とヒロインの関係がガチで険悪だったのが、ガチでロマンスな展開になったしなあ。
と、さらにおもしろいのがこのチームに新しく加入することになるもこもこ毛並みの狼の獣人であるニコルくんのキャラである。いや、ほんとにこの複雑怪奇なキャラ、どうやってキャラ付けしてるんだろうと思うくらい面白いわーw
ヘタレで弱キャラでおとなしく内向的に見せかけて、無自覚毒舌系。いや無自覚なのか? 作中のみんなも疑ってますけれど、つい正直に口をついてしまうと装って思いっきりわざと毒吐いてないか、こいつ? 卑屈で無礼、食い物に対する恨みは身内であろうと忘れず結構根に持つタイプで、しかもやたらと攻撃的で、何かあると「告訴しますよ、告訴!!」と騒ぎ立てる告訴キャラに仕上がってます、なにこれw
これだけ見ると凄まじく嫌なキャラに見えますけれど、周りの連中がいちいちちゃんと相手にしない曲者揃いなせいか、それともニコルくん自体の愛嬌のお陰か、おもしろキャラに仕上がってるのが凄いなあ。あとがきによると、ニコルくん、作者の旧作【チキチキシリーズ】の星秀に似てるんじゃないか、と仰られてますけれど、懐かしいな星秀くん! そう言われると親近感も出てきてしまいます。星秀くん、わりとクズだったような気もしますがw いや、あれで、女たらしの軽薄変態野郎だったけれど、あれで鳳月くんに対して友達甲斐はあったんだよなあ、うんうん。
第一巻はスタートということで、主だったキャラクターの紹介や人間関係、世界観やキーンホルツという特別な場所が置かれている現状などを描き出しつつ、現在進行形でキーンホルツに対して何かが策動している、という物語の始まりを感じさせる出だしで、盛り上がりには欠けるかもしれないけれど、長編らしい大きな巨体が身動ぎして閉じていた眼を薄っすらと開いた、みたいな感があって、はじまったというワクワク感を抱かせてくれる。さて、これも長期シリーズの醍醐味を味わわせてくれるだろうか。

それにしても、あのエルフとドワーフはちょっと人種違いすぎるんじゃないか、見た目的に!?

嬉野秋彦作品感想