飽くなき欲の秘蹟 2 (ガガガ文庫)

【飽くなき欲の秘蹟(サクラメント) 2】 小山恭平/ ぺらぐら ガガガ文庫

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必要とする人がいるから僕らは異能を売る。
僕――世杉見識は弱小異能転売業者「秘蹟商会」のアルバイトである。
つい最近、漆 一色という後輩もできた。彼女はふと働く僕を見て「見識先輩はこんなに働いている感じなのに、ゆお店長は座っているだけなの?」と店長のゆお・アルチザンに疑問を投げかけていた。一色はゆおさんの大事な仕事を知らないからなあ・・・・・・。
「そんなに言うなら店長である私の仕事ぶりを見せてやろう」とゆおさんがやる気を出していた。すぐにムキになるところも、ゆおさんがポンコツと言われるゆえんだ。
そして後日、僕たち秘蹟商会の面々が訪れたのは日本異能教会が主催する異能力の競売の会場であった。そんな様々な異能が売りに出される競売会場で見識は大手異能転売業者の社長に出会った――。
異能がもたらすお金、そして異能により紡がれた人間関係……第二巻!
デビュー作である一巻は、序盤の何を書くのか何を書きたいのかがまだ具体的にならずに漠然とした輪郭のない状態から、後半に行くに連れて急速に収束して一個の作品として結実していった、リアルタイムにというと変なんだけれど着実に物語が色鮮やかになっていく過程はとても印象的でした。一冊の中ですらメキメキと成長を遂げていた作品が2巻ともなればどうなるだろう、と楽しみに読み始めたんだけれど、なるほどこうしてみると一巻はゆおや見識、そして一色というキャラクターが立脚するまでが描かれていて、満を持してこの2巻で溌剌と動き出したとも言えるんじゃないだろうか。ちょっとびっくりするくらい、能動的にガンガン動いてるんですよね。特に、自身の行動原理に確信を得た見識たるや、一切の迷いや内省的なところが陰を潜めたせいか、実に意欲的に状況に挑んでいく。「欲」というものの制御を、内側ではなく「杖」という外部機関に頼っている彼に「意欲的」という言葉を使うとは思わなかったけれど、いい意味で彼は自分の状態に振り回されなくなったんだよなあ、これは。やるべきことに対して回り道はしたとしても、道を間違えて見当違いの方向に行ってしまうようなことだけはなくなっただけに、あれほど不安定だった人格にすごく信頼を抱けるようになった。
多分、一巻の頃の見識だったら、蓮華さんの承認は得られなかっただろうなあ、と思うだけに感慨深い。
そしてもう一人、見違えたのが一色ちゃんである。いやもう、男子三日会わざれば刮目して見よ、って彼女は可憐な女の子でありますけれど、この娘ほど変わるのも珍しい。ちょっと変わりすぎて、自身でも制御しきれずに随分と感情に持ってかれてるところが最初は見えましたけれど、一色ちゃんが感情に振り回されている、という時点で瞠目すべきところなんですよね。それでいて、その発露は真っ直ぐだ。そして、暴れまくる自分の中のものを、彼女はこの巻の中で自力で急速に絞り上げて安定させていくのである。誰に頼るでもなく、本当に自力で、だ。そして彼女は傍観者として見識に頼るだけではない、自らの意思を、覚悟を武器にして、文字通り体を張って、道を誤って迷い続けている一人の少女に、かつての自分と似た内的ループに閉じこもってしまっているあざみ先輩に、彼女の間違いを指摘して彼女が目をそらす彼女の中の正解を、決然と肯定してみせる。
間違いなく、今回のMVPは彼女、一色だったのでしょう。自己完結から脱出すれば、それはそれで耐えられずに自滅し破滅するだろう、と予告されたあざみ先輩を、彼女を見縊りきったその宣告をあざ笑うかのように見事に支えきったのですから。あれほど揺るがぬ芯を、打ち込んでみせた一色こそが殊勲でしょう。まさか、あの足を引っ張るばかりだった彼女が、これほどの仕事をやってのけるとはねえ。
今回の彼女が語る言葉は至言ばかりで、見識も随分支えられたんじゃないでしょうか。見識が答えに迷った時、選択に頭を悩ませた時に、スッと思考をクリアにする言葉を、一色は彼女自身も深く深く考えた末にでしょう、助言、或いは嘆願として見識を後押ししてくれましたし。
まさに見違えたなあ。
そして、今回新登場のあざみ先輩である。あれだけ、いじめという境遇を経て歪みきり、歪んだ状態で固定された挙句にじわじわと破滅しかかっていた彼女が、壊れて狂ったような言動をにじませていた彼女が、あの自ら誘導したとはいえ、一色が見舞われた理不尽な暴力を目の当たりにした時、狂気が洗い流されたように、一気に正気に戻ったようにしてゴテゴテと自分に身につけていた鎧をかなぐり捨てて、素の自分を無防備にさらけ出して、彼女を助けようとしたのを見て、もう一気に惚れましたね。怖かったでしょうに、恐ろしかったでしょうに。自分を守るため、自分の心を救うためにあれだけ頑なに殻の中に閉じこもっていたくせに、それを一色の危機を見た途端に、一切の躊躇なく放り捨てて必死に駆け寄ってきたのですから。
この先輩の優しさを、本来の彼女が持っていた真価を、目の当たりにしたかのような想いでした。これは、一色も体張った甲斐があるわ。そして、どれだけ異能配りのおじさんが彼女の強さを見くびっていたのかも、あのシーンが基盤となって示してくれたような気がします。
いやあ、面白かった。前回結実した部分を一切損なうことなく、その上にさらに積み上げてきたような増々の面白さ。この作者さんは、書けば書くほど、特にシリーズ物は続ければ続けるほど中が充実して行きそうな手応えを感じます。本作、どうも続きが出るか怪しいっぽいのですが、続編にしろ新作にしろ非常に期待したくなる出来栄えでした。
あとは、ゆおさんなんだよなあ。彼女の話の続きを、なんとか読みたいところなのだけれど。

1巻感想